第186話 名前
「あはは。一匹だけだったね」
金魚掬いが終わったあとで、人混みから少し離れた場所に俺たちはいた。
結局、一匹しか釣れなかったというのに、なぜか前野は嬉しそうだった。
まぁ、一匹も釣れないよりはマシだとは思うが。
「……一匹だけで良かったのか?」
「え? まぁ、少し寂しいけど、これはこれでいいんじゃないかな?」
「……お前がいいなら、それでいいけど」
「う~ん……そうだなぁ。この子、なんて名前がいいと思う?」
と、いきなり前野が俺にそう聞いてきた。
「……名前? いや、全然思いつかないけど」
なぜか前野はジッと俺のことを見ている。
「……なんで俺のことを見ているんだ?」
「ミナト」
と、いきなり前野に下の名前で呼ばれて俺は少しビクッとしてしまった。体全体がムズ痒いような……恥ずかしい感覚だった。
「……な、なんだ、いきなり」
「あ、ごめん。後田君のことじゃなくて、この子の名前。ミナトにしようかなぁ、って」
前野はニコニコしながらそう言う。人の名前を金魚に付けるなんて、なんというか……前野らしい。
「……いいんじゃないか。別に」
「ホント? じゃあ、これからよろしくね、ミナト君」
前野はわかってやっているとしか思えない態度でニヤニヤしながら、上機嫌で金魚に話しかけていたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます