第187話 喧騒も遠く

 それから適当に出店を回っていた。俺はほとんど買い物をしなかったが、前野はヨーヨー掬いもしたし、わたあめも買っていた。


 少なくとも、俺の前の席に座っている前野真奈美よりかはテンションが高かった。別にそれが嫌だとかそういうことはなく、むしろ、新鮮な感じがした。


「あ」


 と、人混みの中を歩いていると、前野がいきなり立ち止まった。


「……おい。いきなり立ち止まるなよ」


「あれ。愛留ちゃん」


 前野がそう言って指差す方には……確かに金髪の少女が立っていた。


 横山も浴衣を来てやってきていた。かなり気合いが入っている感じである。


 その隣には金魚やらヨーヨーやら、色々持たされている中原がいる。


 別に悪いことははしていないのだが……俺は思わず顔を背けてしまった。


「邪魔しちゃ、悪いかな?」


 前野が俺にそう言ってくる。と、なぜか俺がその返事をする前に、前野はこれまで来たのと反対方向に歩き出した。


「……おい、どこへ行くんだ」


 慌てて俺はその後を追う。前野はどんどん人混みから離れていっているようだった。


 と、しばらく歩いて、夏祭り会場の隣にある駐車場までやってきてしまった。


 まだ祭りの最中ということもあり、人もほとんどおらず、喧騒が遠くに聞こえる。


「……どこまで、行くつもりなんだよ」


 俺がそう言うと前野は立ち止まった。


「フフッ。ごめん。ちょっと人のいない所に行きたいな、って思ってね」


「……疲れたのか?」


「違うよ。誰もいなそうな場所に行きたかったんだ」


 前野はそう言って俺のことを見てくる。俺は目だけを動かして周囲を見る。


 この場所……本当に俺たち以外いない。


 その時俺は理解した。今俺は……本当の意味で前野真奈美と一対一で対峙しているのだ、と。

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