第179話 単純

「……えっと、どうも」


 とりあえず、俺は中原に挨拶をした。中原は明らかに敵意丸出しの顔で俺を見ている。


「まぁまぁ、中原さん。そんな感じじゃ、後田さんも困っちゃいますよ」


 そう言って間を取り持つように、端井がそう言うと、中原も少し表情を和らげた。


「……なんで中原がここにいるんだ?」


「な……なんでは俺のセリフだ!」


 と思ったのも、つかの間、中原が俺に怒る。俺は困り顔で今一度端井を見る。


「それは、お二人に話し合ってもらうために、私が呼び出しました」


「……話し合う? 何を?」


「愛留のことだ」


 中原は憮然とした態度で俺にそう言う。横山のこと……なんとなくだが俺はわかるような気がした。


「……横山のこと?」


「そうだ。お前……愛留と無人島に行ったんだよな?」


「……横山だけじゃない。前野も一緒だった」


「そんなことはどうでもいいんだよ! 俺は誘われなかったのに……それなのに愛留は俺に会った時、無人島がすごく楽しかったとかずっと話してくるんだぞ!」


 半分涙目になりながら中原はそう言った。


「……そりゃあ、嫌だな」


「だから! 今度は譲らなぞ! 俺と愛留の夏の思い出を作るのをお前なんかに邪魔させないからな!」


「……夏の思い出というと……」


「中原さんは夏祭りに、横山さんと一緒に行きたいそうですよ」


 ……納得した。中原は少し恥ずかしそうに俺から視線を反らしている。


 俺は少し間を置いたあとで、中原を見る。


「……俺はむしろ、横山は中原と一緒に行くべきだと思う」


「へ? な、なんだって?」


 俺は中原を安心させるように笑顔を作ってみせる。


「……二人は幼馴染なんだろ? だったら、夏祭りも二人で行くのが当然じゃないか」


 俺がそう言うと中原は目を丸くしたあとで、はにかんだように微笑む。


「あー……後田。お前……結構話のわかるやつなんだな……」


「……あぁ。俺は話のわかるヤツだ」


「よし! さっそく、俺、愛留を誘ってくる!」


 そう言って、俺と端井が止める間もなく、中原は走り去っていってしまった。


「……単純な人ですね」


 端井が呆れた感じで言ったその言葉に、俺もその時ばかりは同意してしまったのであった。

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