第180話 二人きり

「……で、用事ってこれだったのか?」


 中原が帰ったあとで俺は端井に訊ねる。


「えぇ。これだけです」


「……これだけのためにわざわざ呼び出されたってことか」


「そうですね。でも、大事なことでしょう? これで、何も気にすることなく、真奈美様と二人で夏祭りに行けますね」


 わざとらしい笑顔で端井はそう言った。俺としては別にそこまで前野と二人で行くことに固執していたわけではないのだが。


「……だけど、横山が俺を夏祭りに誘ってきたのに、いいのかな」


「大丈夫でしょ。横山さんから連絡がありますよ。あの人、中原さんが誘ったら断れないでしょ」


 そう言って何故か勝ち誇ったようにそう言う端井。なんでむしろ、コイツが勝ち誇った顔をしているのかはわからないが。


「……それにしても前野と二人、か」


「なんですか? 今更恥ずかしいとか言わないでくださいよ? これも、真奈美様との仲を進展させてもらうためですから」


 と、俺はふと端井の事を見る。前野と二人きりで夏祭り……正直、俺にはその状況に対応できるかどうかが不安だった。


「……お前は来ないのか?」


「は? 何にです?」


「……いや、だから、夏祭り」


 俺がそう言うと端井はポカンとした顔で俺を見る。遠くでまたひぐらしが鳴いていた。


「あ……あはは! アナタ、馬鹿じゃないですか!? せっかく二人きりになれる状況を作ってあげたのに、なんで私を誘うんです?」


「……いや、だって、前野と二人だけで過ごせるか不安だし……」


「なんでですか!? 学校では二人きりで話しているじゃないですか!?」


「……状況が違うじゃないか」


 俺がそう言うと、端井は少し困ったように俺のことを見る。それから、不機嫌そうな顔で俺を睨む。


「……考えておきます。また連絡しますので」


 そう言って、端井もそのまま去っていってしまった。


 というか、俺としては端井が前野と一緒に過ごせると思って誘ったのだが……何か悪いことをしてしまったのだろうか?

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