第151話 全部

「……なんで断ったんだ?」


 しばらくして俺がなんとか言った疑問に、横山も不思議そうな顔をする。


「なんで? うーん……なんでだろう……」


「……理由、ないのか?」


「理由がないっていうか……アイツがはっきり理由を言えなかったんだよね」


「……中原が……言えなかった?」


 横山は小さくうなずくと、少し目を細めて先を続ける。


「ずっとアイツと幼馴染だったし、最初は付き合おうって告白されて、付き合ってもいいかな、って思ったんだけどね~……聞いてみたんだ。アイツに」


「……なんて?」


「ウチのどこが好きなの? って」


 横山はそう言って恥ずかしそうに頭を掻いていた。


 どこが好きなの……難しい質問だ。少なくとも俺はそういうことを誰かに聞かれてはっきり答えることができるかどうか自信がない。


 もっとも、俺が誰かにそんなことを聞かれることもあるかどうかわからないが。


「……それで、中原はなんて言ったんだ?」


「全部、って……フフッ。全部って……ちょっと、ね? 適当すぎじゃないって思っちゃった」


 横山はそう言って笑っていたが、俺は笑えなかった。


 全部……中原は実際に横山の全部が好きなんじゃないだろうか? 適当に言ったわけではないとしたら……横山にはそれが誤って伝わってしまったことになる。


「……それで断ったのか」


「う~ん……まぁ、そんな感じかなぁ」


 横山は軽くそう言っているが……中原にとっては一大事なんじゃないだろうか。


 ずっと一緒にいた幼馴染に対する告白が失敗に終わったとすると……その悲しみは俺には推し量れない。


 俺に例えるならば……と、そこまで考えて、なぜかふと、前野の顔が浮かんできてしまって、俺はそれ以上考えるのをやめたのだった。

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