第152話 内緒

 それから、その後しばらくは他愛ない会話を横山とするだけであった。


 俺は横山の短くなった髪にどうしても視線が行ってしまう。


 どうして髪を切ったのか……それだけはなぜか聞き出せなかった。


 別にそこまで失礼なことでもないと思うのだが……なぜか聞けなかったのである。


「あ~……もうこんな時間か」


 いつのまにかファミレスの外はオレンジ色の光が差し込んでいた。随分と長い間話してしまっていたようである。


 といっても、ほとんど、横山が俺に対して一方的に話しかけてくるだけであったが。


「じゃあ、そろそろ解散しますか」


 横山の提案で俺たちはファミレスを後にする。


「う~ん……久しぶりだったけど、なんか、後田君と話していると、学校にいるみたいだね」


 褒めているのかいないのか、よくわからないことを言う横山。


「……あのさ。一つ聞いていいか?」


「ん? 何?」


「……髪、どうして切ったんだ?」


 その時になってようやく俺はそれを聞くことができた。横山はしばらくの間俺のことを見ていたが、急に悪戯っぽく微笑む。


「内緒」


 それだけ言って横山は歩いていってしまった。


「じゃあ、次は無人島だね!」


 振り返って手を振る横山。俺もただ、手を小さく振り返す。


 遠ざかっていく横山を見ながら、俺は内緒、ってなんなんだろうと、自分の中で考え込むだけなのであった。

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