第108話 行きたい場所

 そして、それから数日後にはテストがあった。


 一応勉強していたのでそれなりにできた。隣の席の横山をチラリと見た時は、この世の終わりのような表情で悩んでいたが。


 そして、すべてのテストが終了した日のことであった。


「後田君」


 と、脱力していた俺に、前野が振り返って話しかけてきた。


「……なんだ?」


「約束、覚えているよね?」


「……あぁ。出かけるって話だろ?」


 前野は笑顔で頷く。


「……横山からもどこかに行きたいって言われているんだけど」


「うん。愛留ちゃんも一緒でもいいよ」


「……愛留ちゃん?」


 俺が驚いていると、前野は別にどうということはないという顔で俺を見る。


「変? 仲が良い友達同士って、名前で呼ぶでしょ?」


「……まぁ、そうだろうが、じゃあ、横山もお前のことを……?」


 ……いや、数日前に話していた時、横山は前野のことを名字で呼んでいた。


 ということは……前野が勝手に横山のことを名前で呼んでいるのか?


「で、私から提案があるんだけど」


 と、俺の質問には答えずに、前野は話を進めていく。


「……提案って、なんだよ?」


「行きたい場所の提案。後田君、どこか行きたい場所ある?」


「……いや、別にない」


「そう。じゃあ、私が行きたい場所でいいよね」


 そう言うと前野は立ち上がる。


「行きたい場所、後で連絡するから」


 そう言って唖然とする俺を置いて、そのまま前野は教室をでていってしまったのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る