第109話 協力

「え……前野さんがそんなことを……」


 そして、放課後。俺と横山は一緒に下校していた。


 俺が前野にテストが終わった今、長い休みに入るわけでもあるが、そこでどこかにでかけたいと言ってきたことを伝えたのだ。


「……まぁ、俺は別に断る理由もないから行くって言っておいた」


「それで……ウチもそれに付いていっていいってこと?」


「……いや、むしろ、前野はお前も誘うみたいなこと言ってたぞ」


 さすがに前野が横山のことを「愛留ちゃん」と呼んでいることは言わないでおいた。俺としてもなぜかそれは言わない方がいいと思ったし。


 横山はしばらく無言でなぜか悩んでいるようだった。横山にしては珍しい表情だった。


「……横山は、前野と一緒にどこかに行きたくないのか?」


「え? あ、いや、そんなことないよ。ただ……えっと、ウチだったら、もしかしたら、皆の行きたい場所に、協力できるかもなぁ、って」


「……協力? どういうことだ?」


「いや、例えば海とか山とかさ……普通長い休みって行くでしょ? そういう所」


 ……まぁ、言われてみればそうだが、なんでそれで「協力」できるというのだろうか?


 その時の俺は横山が言っていた言葉の意味をよく理解していなかったが、後にそれが、そのままの意味の言葉であったことを理解することになる。それはまた、別の話だが。


「……そうか。じゃあ、まぁ、よろしく頼む」


 俺がそう言うと横山は嬉しそうに微笑む。段々と暑くなってきたが、その笑顔はとても爽やかだった。


「うん! 任せてよね!」


 そして、俺がなんとなく横山に言ってしまった言葉も、後々、大きな出来事として、俺に降り掛かってくるのだった。

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