第81話 捨て犬
「へぇ。ここが後田君の家なんだ」
結局、前野は俺の家までやってきてしまった。
「……じゃあ、今日はここで」
俺はなるべく早く家の中に入ろうとするが……明らかに前野の視線を感じる。
俺は嫌々ながらも前野の方を見る。前野は……まるで捨てられた子犬のような目で俺を見てくる。
……幸い、今日は両親も家に帰ってくるのは遅くなると言っていた。ほんの少し……少しだけ家にあげて、お茶でも出せば帰るだろう。
「……わかった。だが、約束してくれ。すぐに帰る、と」
俺がそう言うと前野は嬉しそうに微笑む。
「わかっているって。そんなに長いするつもりはないよ」
完全に俺の敗北だった。情けないと思いながらも、俺は前野を家の中に入れる。
経験はないが、捨てられた子犬を拾ってきてしまう人の心情とはこういうものなのかもしれない……。
「へぇ。ここが後田君のお家の中なんだ」
「……別に珍しくもないだろ。普通だよ」
物珍しそうにそう言う前野に対して、俺はそう否定する。
「じゃあ、お邪魔します」
上機嫌な様子で前野はそう言った。その言葉で俺は……女子を自分の家に上げてしまったことをようやく強く認識するのであった。
「……とにかく、お茶くらい出すから。それ飲んだら、帰ってくれよ」
「分かっているって。そんなに怒らないでよ」
嬉しそうにそう言う前野。全然帰りそうにない気配を感じるのは俺の勘違いであってほしいが……とにかく、とんでもない状況になってしまったのであった。
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