第80話 フラグ

「……なぁ、前野」


 学校を出てからしばらく歩いて、俺は前野に聞いた。


「ん? 何?」


「……随分と俺と歩いているが、お前の家、こっちなのか?」


 すでに10分以上、前野と俺の家の方向に向かって歩いている。


 どうにも、前野の家が俺の家の方向にあるという感じは……直感的にだがあまり感じないのだ。


 俺が訊ねると、前野は少し考え込むような表情をしたあとでニッコリと微笑む。


「ううん。違うよ。むしろ逆方向」


「……お前、なんで俺に付いてきているんだよ」


「なんで、って……後田君の家の場所を知りたいから」


 さらっと怖いことを言う前野。


「……お前、それストーカーの発言だぞ?」


「そう? 別にストーカーなんてしないよ。そんなの、最低だし」


 前野の何気ない言葉で俺はふと、ある人物を思い浮かべたが、すぐに頭の中から追い払った。


「……とにかく、もうそろそろ俺の家だが、お前はもう自分の家の方向に帰れって」


「え? 後田君。せっかくここまで付いてきたのに、私を追い返すの? それって、ちょっと酷くない?」


 前野は本気でそう言っているようだった。


 そして、俺自身も、前野がまじで俺の家の場所を知りたいがために付いてきたのだと思うと、さすがにそこまで無碍には扱えないのであった。


「……わかったよ。家の前までだからな。家の中には入れないからな」


「フフッ。私、家の中に入るなんて言ってないよ? それとも、後田君は私を家の中に入れたいの?」


 いたずらっぽく微笑む前野。俺は恥ずかしくなってそのまま背を向け、家の方に向かって歩き出す。


 ……あれ? 今のって、どう考えても、これから先の流れを決めてしまったような……いわゆるフラグのようなセリフだった気がするのだが……。


 とにかく、俺は前野が俺の後ろを付いてくるのを確認しながら、家へと急いだのであった。

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