第82話 それは夢のような
「そういえば、後田君」
リビングで前野は俺が提供したお茶を飲んでいた。
「……なんだ? お茶を飲んだら帰るって約束だったよな?」
「それは分かっているって。後田君って、家に友達を呼ぶタイプなの?」
……前野はわかりきっている質問を俺にしてきた。俺がそんなタイプに見えるというのだろうか。
「……お前はそう思うのか?」
「ううん。違うと思う」
「……じゃあ、お前の思っている通りだよ」
俺がそう言うと前野はニンマリと不敵な笑みを浮かべて俺のことを見る。
「ふーん。じゃあ、後田君の家に来たのって、もしかして私が初めて?」
そう言われて俺は思わず次の言葉を失ってしまう。
……確かに、自分の家に誰かを上げるなんていつぶりだろう? いや、そもそも、本当に誰かを家に呼んだことなんてあっただろうか。
「……そうかもな」
俺がそう言うと前野は満足したような表情をする。そして、そのまま立ち上がった。
「それなら、いいかな。私、帰るね」
「……そうか。わかった」
俺は前野を家の前まで見送ることにした。
「じゃあ、明日、学校でね」
とても満足したような笑顔で前野は手を振り、去っていく。まるで夢を見させられていたかのような時間だった。
そして、前野の姿が見えなくなってから、俺は近くの電柱を見る。
電柱の影にいた人物とは、一瞬だけ視線があったが、すぐにソイツは身を隠し、そのまま何も言わずに俺に背を向けて去っていく。
明らかに俺に敵意まるだしの視線を向けていたその人物の後ろ姿は、間違いなく、端井霧子なのであった。
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