第67話 懇願

「ちょ……ちょっと来て!」


 昼休み、俺はいきなり横山にそう話しかけられる。NOと言わせない剣幕の横山に、俺は拒否することもできなかった。


「……あぁ。分かった」


 すると、前野は半ば強引に俺の腕を掴むと、そのまま教室の外へ連れ出していった。


 教室を出る時、一瞬、前野が俺のことを見たような気がしたが……確認はできなかった。


「……で、なんだ?」


 俺が確認すると、横山は気まずそうな顔で俺のことを見ている。


「……えっと、なんでウチに来たの?」


「……先生に言われたんだ。プリントを届けるようにって」


「あ、あぁ……そっか。で……ウチのその……住んでいる家を見て……どう思った?」


 俺がどう答えるかに対して横山は怯えているようだった。


「……どうって、大きい家だなぁ、と」


「あ……そ、そうだよね……あのさ……お願い!」


 そう言って、横山はいきなり俺に向かって頭を下げる。


「……何がだ?」


「ウチの家のこと……黙ってて! 誰にも言わないでほしいの!」


「……別に言わない。言う相手もいないしな」


「え? でも、前野さんは?」


 そう言われて俺は思わず横山を睨んでしまう。横山は少し気まずそうな顔をする。


「……前野とは今は話していない。だから、お前のことがバレることもない」


「あ、そうなんだ……まぁ、とにかく、そういうことだから……」


「……なぁ、俺も一つ聞いていいか?」


「ん? 何?」


「……お前、なんであの時泣いたんだ?」


 俺が問いかけると、横山は少し驚いたような顔をする。


「……フフッ。なぁんだ。てっきり、後田君はもう気にしてないって思ってたよ」


「……別に気にしてはない。ただ……理由を知りたいだけだ」


 俺がそう言うと横山はいたずらっぽい顔をする。


「教えないよ。まぁ、でも、ウチ、もう大丈夫だから」


 そう言って横山は教室に戻っていってしまった。なんだか……よくわからないヤツである。

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