第63話 夢幻

 老人に言われるままに俺は建物中に入っていく。建物……というか、そこは居住スペースなんだろうけど……とても広かった。


 比較にならないくらいにウチの何倍も広いのだ。俺はそこがクラスメイトの家だということを信じられなかった。


「お嬢様を呼んで参ります。こちらにて少々お待ち下さい」


 そう言って通されたのはリビングっぽい場所だった。俺は言われるままに、そこにあったソファに腰掛ける。


 ソファの柔らかさに驚きつつ、俺は周囲を見回す。とても豪華な作りの部屋だ。おまけにあの老人も……本当にここが横山の家なのか?


 ……いや、思い返してみれば表札はたしかに横山になっていた気がする。そもそも、先生だって、間違った住所を示した地図を俺に渡してこないだろう。


「はぁ!? く、クラスメイト!?」


 素っ頓狂な声が響いてくる。街以外なく横山の声だった。


「なんで勝手に通したの! 誰も家には入れないって約束したでしょ!?」


「ですが、お嬢様。流石にクラスメイトの方を追い返すわけには……」


 と、しばらくしてから横山と思われる声と老人の会話が止んだ。それからほどなくして老人が戻ってくる。


「……失礼致しました。お名前を確認しておりませんでした」


「あ、あぁ……えっと、後田です」


「後田様ですね。少々お待ち下さい」


 そう言って老人はまた戻っていく。なんとも難儀なことだ。


「下神の馬鹿ぁ!」


 いきなりそんな怒鳴り声と、扉を乱暴に閉める音が聞こえてきた。間違いなく、横山の声だった。


 そして、少し悲しそうに老人がこちらに戻ってくる。


「……申し訳ございません。お嬢様は只今、ご対応できません。せっかく来てもらって申し訳ないのですが……」


「あ、いえ……大丈夫です」


「……せめて、家の外までお送りさせてください」


 老人の悲しそうな顔での申し出に俺も断ることができず、そのまま俺は先程入ってきたばかりの門の場所に戻ることになったのであった。

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