第64話 願い
「この度は誠に申し訳ございませんでした」
門の場所まで戻って来ると、老人は深々と頭を下げる。
「あ……いえ。俺も急に来ちゃったので……すいません」
「……あの、後田様。こんなことを聞くのも大変申し訳ないのですが……お嬢様とは、お友達でいらっしゃいますか?」
いきなりそう聞かれて俺は思わず面食らってしまう。それと同時に思い出されるのは、横山の泣き顔だった。
「え、えぇ……まぁ……」
なんとも歯切れの悪い返事を俺はする。老人は悲しそうな顔で俺のことを見ている。
「……そうですか。幼い頃よりご面倒を見させていただきました。お嬢様は……どうにも他人と距離がわかりかねていらっしゃる」
「……と、言いますと?」
「……仕方がないことなのです。お嬢様はご両親がお仕事で海外に行かれるまで、一切、他者との関わりを許されませんでしたから……幼少の頃の辛い経験が未だに尾を引いているのかもしれません」
そう言うと老人は今一度深々と頭を下げる。
「どうか……どうかお嬢様と仲良くしていただきたい」
「や、やめてください……わかりましたから……仲良くします」
俺がそう言うと老人は安心したように微笑み、そのまま門の中へと戻っていった。
今一度元の世界に戻ってきた俺は……結局一体なんだったのかをよく理解できていなのであった。
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