第50話 待ち人

「……げっ」


 俺は思わず声に出してしまった。それくらい、驚いたからである。


 学校を出たのは確かだったのだが……なんと、校門には見知った人間が立っていた。


 しかもソイツは、俺を見ると、嬉しそうに笑いながらこちらへやってくる。


「どうも、後田君。待ってましたよ」


 腰まで掛かる程の長い黒髪……間違いなく端井霧子だった。


「……俺はお前が待っているとは思わなかったよ」


 俺が明らかにげんなりとした顔をしていると、端井は不思議そうな顔で俺を見る。


「なんですか? 私が待っていても、嬉しくないんですか?」


「……あぁ。お前とはほとんど関わりがないからな」


 俺がそう言うと、なぜか端井は気持ち悪く肩を揺らしながら笑っている。


「……何がおかしい?」


「関わりがないなんて……そんなつれないこと言わないで下さい。後田君、私とアナタは一緒に登校する仲がじゃないですか」


「……お前が勝手に待ち伏せしていただけだろう?」


 俺がそう言うと端井は首を横にふる。


「それだけじゃありませんよ? 私とアナタには共通の友人……いえ、大切な人がいます」


「…‥は? 大切な人?」


「えぇ。もちろん、真奈美様です。大切じゃないんですか? デートまでしておいて」


 ……コイツの言うことをにまともに取り合う必要は少しもない。


 俺はそう思い、そのまま端井のことを無視して、その場を後にしようとする。


「待って下さい」


 と、いきなり端井は俺の腕を掴んだ。その力は、女とは思えないくらいに強いものだった。


「……な、なんだよ?」


 思わず驚いてしまって、戸惑いながら俺は端井を見る。


「今日はお話があるからアナタを待っていたんです……勝手に一人で帰るなんて酷いこと、しないで下さい。一緒に帰りましょうよ。ね?」


 笑顔でそう言う端井には、異様な迫力があった。


「……わかったよ」


 情けないとは思いながらも、妙な危機感を感じ、俺は端井の提案を受け入れたのだった。

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