第40話 何者

 その日、俺は一人で帰っていた。


 最近は前野か横山のどちらかに勉強を教えなければいけなかったので、帰るのが遅くなる時もあった。だけど、今日は久しぶりに早く家に帰れる。


 ……といって、早く帰ったからと言って何かあるわけでもないのだが。


 ただ、今、現在、俺にとっての問題は……誰かが俺の後をついてきているのである。


 俺のことをつけてくるヤツ……考えられるとすると、前野か横山である。しかし、今日は横山とは特に話していないし、前野とも適当な話をしただけだ。


 では……一体誰なのか?


 俺はしばらく我慢していたが……思い切って振り返ってみることにした。


 と、振り返った先……俺から少し離れた距離にある電信柱の影から、何者かが俺のことを見ていた。


 ウチの学校の制服を着ている女子……わかるのはそれだけだった。


 前野以上に長い黒髪で、腰の辺りまでかかっているのではないかというくらいに長さだ。


 正直、ちょっと不気味に思えてしまい、思わず俺は驚いて動きを止めてしまった。


「……え? 誰?」


 俺が問いかけると、その少女はゆっくりと俺の方にやってくる。そして、じっと、責めるような目つきで俺のことを見る。


「前野さんと……デートするんですか?」


「……はぁ? い、いきなりなんだよ……」


「デートするのかって、聞いているんです!」


 突然大きな声を出されて面食らってしまった。


「……知らない。前野には今度の日曜日に、としか……」


 そして、そこまで言って俺はしまったと思った。それと同時に少女はニヤリと不気味に微笑む。


「そうですか……日曜日に」


「……お前、一体何なんだ。いきなり現れて……」


 俺がそう言うと少女は何も言わずに俺に背を向ける。


「……お、おい!」


 俺が呼びかけると、俺の方に顔だけを向けてくる。


「クラスメイトの顔と名前と覚えていないのは、普通に最低ですよ。後田湊君」


 ニヤリと薄気味悪く笑ってそう言うと、少女はそのまま去っていってしまったのだった。

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