第37話 誤解

「な、なんで……なんで私、前野さんに嫌われてんの?」


 その日も俺は横山の勉強を見てやっていた。ただ、前野にははっきりと、横山の勉強を見ることを伝えている。


 無論、前野は文句を言わなかったが、明らかに不満そうな顔だった。まぁ、嫌だ、とはっきりと言ったのだから、当然なのだが……。


「……お前、前野に何かしたのか?」


「何もしてないって! 話したことだってほとんどないし……」


 まぁ、前野の方も、見た目が苦手と言っていたし、本当に印象だけで喋っている可能性が高い。


 ……というか、見た目に関しては俺みたいな陰キャも、横山みたいなタイプは苦手なのだ。なんで俺はコイツに勉強を教えているのだろう?


「ねぇねぇ! どうすれば前野さんに好かれるかなぁ?」


「……はぁ? 知るか。そもそも、前野と喋ったことがないんだろ? だったら、喋ってみて誤解を解けばいいんじゃないか?」


「誤解? 前野さんって、ウチのことどんな感じで誤解しているの?」


「……頭が悪くて、人との距離感をよくわかっていないギャル?」


「……それ、アンタが思っていることじゃないの?」


 俺は沈黙でその問に回答した。横山は悲しそうに俯いている。


「……ウチ、別に好きでギャルやっているわけじゃないんだけどな」


「……なんだそれ? 無理してるってことか?」


「まぁ……そんな感じかも」


「……前野のことはともかく、勉強に集中しろよ。テストまで近いんだから」


「は~い……」


 渋々勉強に戻る横山。言われてみると……俺は前野ことだけじゃなくて、横山のこともよく知らないのだ。


 思わず俺はその整った顔立ちも見つめてしまう。


「え……な、何?」


「……いや、なんでもない」


 ……まぁ、知る必要のないことは知らなくていいか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る