第19話 好きな人

 穏やかな昼休み……俺は窓の外を眺めながら考えに耽っていた。


 横山は相変わらず俺のことをチラチラと見ているようだったが……まぁ、しばらく放っておくことにした。


 それにしても、俺と前野が付き合っているように見えるとは……横山は一体何を見ているのだろう? もしかして、横山は男女が会話していたら付き合っているとでも思うタイプなのだろうか?


「そういえば」


 俺がそんなことを考えていると、ふと、前野が俺に話しかけてきた。


「後田君は、好きな女子とかいるの?」


 ……いきなりのことで俺は目を丸くしてしまった。隣の席では横山がわざとらしく咳き込んでいる。


「……いると思うのか?」


「うん。いると思う」


「……そうか」


 俺が会話をなぁなぁで打ち切ろうとすると、前野はジッと俺のことを見つめてくる。その綺麗な目に見つめられるとさすがの俺でも恥ずかしさを意識してしまう。


「もしかして、それって、私?」


 さすがに俺も驚いてしまった。あまりにも唐突、そして、あまりにも脈絡がなさすぎるからだ。


「……なんでそう思うんだ?」


「だって、この前一緒に買い物に付いてきてくれたし」


「……お前は買い物に付いてきてくれたら、自分のことを好きでいてくれるって思うのか?」


「うん。だって、家族以外の人と買い物に行ったの、初めてだったし」


 前野はすごく真面目な表情で俺を見ている。前野は……本気でそう思っているようだった。


「……まぁ、嫌いじゃないよ」


 俺がそう言うと前野はしばらく無表情で黙ったまま俺のことを見ていた。


「ふーん。アリガト」


 それだけ言うと、前野は前方に向き直ってしまった。


 明らかに横山の視線を感じながら、俺は恥ずかしさに悶えていたのだった。

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