第13話 喜び

「……あー……前野」


 その日は、俺は珍しく自分から前野に声をかけてみた。反応してくれるか心配だったが、普通に前野は振り返ってくれた。


「何? 後田君」


「……えっと、これ、持ってる?」


 俺は手にしていたキーホルダーを前野に差し出す。


 それは、以前前野が俺にくれた「くまポン」のキーホルダーだった。


 数日前にコンビニに行った時、ガシャポンが設置してあったので、試しに引いてみたのだ。


 俺が差し出したくまポンのキーホルダーは金色のクマだった。


 まぁ、前野は被りが出るくらい集めているようだし、おそらく持っているものなのだろうが――


「ホ……ホントにくれるの!?」


 前野は立ち上がってかなり興奮した様子で俺に聞いてきた。思わず俺は身を引いてしまうくらいに、かなり前のめりに聞いてくる。


「……あ、あぁ。この前もらったお礼に。持っているヤツだった?」


「持ってない! ありがとう!」


 そう言って前野は俺があげたキーホルダーを嬉しそうに眺めている。


 いつもクールで無表情な黒髪ロングの美少女……というイメージはいまので完全に崩壊した。


 だけど……そこまで喜んでくれるのは俺としても嬉しかった。


 と、俺が前野を見ていると、前野は少し恥ずかしそうに俺に微笑んだ。


「あ……あの、ありがとう……ね」


 恥ずかしげにお礼を言ってくる、そんな前野を見ていると、前野と会話するのも悪くないなと思えてきてしまうのだった。

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