第12話 可愛さ

「……えっと、何これ?」


 俺は自分の机の上に置かれたものを見て、思わず前野に聞いてしまった。


 俺の机に置かれたのは……クマのキャラクターのキーホルダーだった。持ってきたのは……もちろん、前野である。


「くまポン」


「……くま……ポン?」


 俺が再度聞き直すと、前野は不機嫌そうに俺のことを見る。


「これ、可愛いでしょ?」


「……いや、まぁ、可愛いと思うけど……え? もしかして、前野は、俺がこれを好きになるって思ったの?」


 俺がそう言うと前野は真面目な顔で小さく頷く。


 いや、たしかに可愛いとは思うけど……こういうのは女の子の好きなものだろう。


「じゃあ、何? 後田君はこのキーホルダー、趣味が悪いって言いたいの?」


「……いや、そんなことはないよ。ただ、まぁ、俺が持つにはちょっと可愛らしすぎるかなぁ、って」


「別にいいじゃない。ほら、これ、被ったヤツだから、後田君にあげる」


 そう言って前野は俺にキーホルダーを手渡してきた。


「……どうも、ありがとう」


「なんだか、微妙な反応だけど、嬉しくないの?」


「……い、いや。嬉しいよ。女の子から何か貰ったの初めてだし……」


「そう。それじゃあ、また被りがあったら、あげるね」


 そう言って前野は会話を終了してしまった。俺は今一度キーホルダーをよく見る。


 というか……前野はこんな可愛らしいものを集めているんだな……むしろ、そのことが意外なのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る