第11話 探索

 俺はその後、前野のことをすごいと思ってしまった。


 考えてみると、俺は俺が一体何を好きなのか、どんなことを趣味としているのか……まるで思いつかなかったのである。


 俺は俺自身を理解していない……そんな悲しい事実が、前野のせいで発覚してしまったのだ。


「で、考えてきた?」


 当然のように、前野は俺にそう聞いてきた。


「……すまん。わからなかった」


「わからない? どういうこと? だって、自分のことだよ? 後田君は自分の好きなことがわからないわけ?」


 前野に信じられないという顔でそう言われる。いや、実際今回は前野の反応もその通りなので、俺も否定できないのだが。


 しばらくの間、気まずい沈黙が流れる。と、前野は小さくため息をついた。


「じゃあ、探そうよ」


「……探す?」


「そう。後田君の好きなこと、というか、好きなれそうなこと。私も探してあげるから」


 ……なんだか、憐れまれているような気がしたが、なぜか前野が納得したような感じになっているので、俺もそれに同意することにした。


「……じゃあ、よろしく、頼む」


「わかった。明日、後田君が好きそうなものを持ってくるから」


 そう言って前野は会話を打ち切ってしまったが……俺の好きそうなものって、なんだ?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る