第10話 すべて

 そして、問題はその後日のことであった。


 一体、どういう話を前野にすればいいのか。俺にはまるで思い浮かばなかった。


 そもそも、前野が何を好きとか、趣味とか……そういうのさえまるで知らないのだ。盛り上がる話題など思いつくはずもない。


「ねぇ」


 放課後、いつものようにぶっきらぼうに前野が俺に話しかけてきた。


「……なんだ?」


「もう、今日終わっちゃうんだけど。なんで私に話しかけてこないの?」


 相変わらずの高圧的な態度で前野はそう言ってくる。


「……あのなぁ。いくらなんでも、無茶振りすぎるだろ。俺はお前のことを何も知らないんだぞ?」


 俺がそう言うと、前野は「言われてみればそうだ」という顔をする。いやいや、先に気付いてほしかったんだが。


 すると、前野はなぜか自分の机の方に向き直り、何かをノートに書き出した。


「これ。私のすべて」


 そう言って、前野は俺にノートの切れ端を渡してきた。


「それを見て、明日こそは私に話しかけてきて。友達なんだから」


 謎のセリフを残して、前野は立ち上がり、そのまま教室を出ていく。


「……私の、すべて、ねぇ」


 ちょっと興奮する言葉だと思いながら、俺は前野が渡してきたノートの切れ端に書かれた内容を見て……結果的にまた思い悩むことになるのであった。

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