第9話 話題

「後田君」


 ……すでに慣れたもので、前野に声をかけられてもそこまで驚かなくなった。まぁ、そりゃあ、ほぼ毎日声をかけられているわけだし、いい加減慣れろというものであるが。


「……何?」


「また聞きたいことがあるんだけど」


「……何を聞きたいんだ?」


「この前、後田君は私と友達になりたいって言ってきたわよね?」


 ……なんだか事実が捻じ曲げられているような気がする。そんなこと俺は言っただろうか?


「言ったよね?」


 俺が迷っていると、畳み掛けるように前野がそう言ってくる。俺は……否定するのを諦めた。


「……あぁ。で、前野は俺に友達になってあげてもいいと言ってくれたな」


「そう。で、思ったんだけど、友達になると、どうなるの?」


「……は?」


 またしても意味のわからない質問だった。いや、友達というものを前野はそもそも理解していなかった。そうなると、友達になってから何をするのかわからないというのも納得できる。


「……そりゃあ、友達なんだから、遊びに行ったり、共通の話題で盛り上がったりするんじゃないか?」


「ふぅん。そうなんだ」


 と、前野は俺の話を聞いてしばらく黙ったあとで、立ち上がった。


「じゃあ、明日までに私と後田君が共通で盛り上がりそうな話題、考えてきてね」


「……はぁ? 俺が?」


 俺が反論する前に、前野はすでに教室から出ていってしまった。


 ……いや、俺、前野が何を好きかとか、まるで知らないのだけれど……。

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