第8話 許可
しかし、それは問題の持ち越しでしかなかった。
次の日も前野の様子は同様だった。俺のことをジロジロと見ているが……話しかけてこようとはしない。
おそらく、昨日のことをまだ、前野は根に持っているはずである。俺が何も答えずに帰ってしまったことを。
そうなると……今日は前野はきっと、俺が帰ろうとするその時に、昨日と同じ質問をしてくるはずである。
一体どうすればいいのか……答えが出ないままに時間が進んでいく。俺は窓の外を眺めながら現実逃避していた。
「ねぇ」
しかし、その時はやってくる。前野は放課後になると、俺の方に身体を向けて話しかけてきた。
「……何?」
「昨日の私の質問に答えてもらっていないんだけど?」
……いや、別に答えるのは簡単だ。前野の望む通りの答えを口にすればいい。
しかし、それでいいのだろうか? なにしろ、俺だって、友達なるっていうことをどういうことかよく理解していない。
おまけにクラスでも上位の美少女からそれを要求されているとなれば、逆に慎重になるのは仕方ないことである。
俺はそれからも、少し迷ったが……前野はおそらく、こちらが折れない限り、ずっとこの調子だろう。
「……俺は前野と友達になりたいけど」
恥ずかしげにそう言うと、前野は少し驚いたような顔をした。お前が言わせたようなものなのに、なぜ驚くのか……。
「そう。じゃあ、友達になってあげてもいいかな」
と、そう言ってうっすらと笑みを浮かべて、前野は立ち上がる。
「じゃあね、後田君。明日から友達としてよろしく」
そう言って前野は颯爽と勝手に帰っていく。その綺麗な黒髪が揺れる後ろ姿を俺は呆然と眺めることしかできないのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます