第7話 提案

 その日は前野の様子がどうにもおかしかった。しきりになぜか背後の俺のことをチラチラと見てくるのである。


 一体どういうつもりなのかさっぱりわからないが……おそらく、何か俺に話したいことがあるのだろう。


 しかし、結局、放課後になるまで前野は話しかけてこなかった。話しかけてこないのならば、わざわざあえて相手をする必要もない。俺はそのまま帰ろうとした、が……


「後田君」


 帰ろうとしたその時に、前野が俺に話しかけてきた。


「……なんだ? 前野」


 前野はジッと俺のことを見つめている。俺は視線を反らすこともできず、気まずい思いをした。


「後田君は、私と友達になりたいって、思わないの?」


「……なんだって?」


「だから、私と友達になりたいって思わないのか、って聞いているの。どう?」


 前野は至極真面目な顔で俺を見ている。どうやら……本気で言っているようである。


「……えっと、それって、前野は俺と友達になりたいってことなの?」


「は? 違うって。後田君が私と友達になりたくないの、って聞いているの」


 前野はずっとこの調子である。俺は……そのまま何も言わずに前野に背を向け、そのまま足速に教室を出た。


 背中には前野の視線を感じる。感じながらも、俺は前野の問いかけに答えることができなかった。答えることができるほど……俺は強い人間ではないのだ。

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