第2話 警戒

「ねぇ」


 前野が俺に話しかけてきたのはいきなりのことであった。授業が終わり、休み時間に入った直後のことだ。


「……え? な、何?」


 戸惑いながらも俺は聞き返す。


「君、名前。なんだっけ?」


「……後田、だけど」


 俺がそう言うと前野は少し考え込んだあとで、なぜか嬉しそうに俺に微笑む。


「前の席の前野さんに、後ろの席の後田君か。面白い偶然だね」


 ……まったく俺と同じことを前野は考えていたようである。俺としてはなんだかものすごく恥ずかしい気分になった。


「……まぁね」


「後田君って、いつも、後ろの方の席だよね? あれって、希望しているの?」


 ……まさか、気づいているとは思わなかった。というか、コイツ俺が後ろの席であることを認識していたっていうのか?


 どう考えてもこのクラスでの俺はかなり存在感が希薄である。それなのに、前野は俺が後ろの席にいることをわかっていたというのか?


「……いや、希望なんてしていない。たまたまだよ、たまたま」


「ふぅ~ん、そうなんだ」


 急に興味がなくなった感じでそう言うと、前野はそれで話を打ち切ってしまった。


 ……なんだ? 前野は一体何をしたかったんだ? 全くわからない。


 ただ、一つわかるのは……前野は俺にとって警戒に値する人物であるということだ。

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