第3話 六甲山登頂へ
一休みしたところでまた行動再開。
ロックガーデンの終わりが先程の風吹岩なので、ここからは山道となる。ちなみにここで引き返す人も多い。
アップダウンは先程に比べると緩やかになったため、疲労もそこまで変わらない。逆にちょっと慣れたせいか、寧ろ楽になったとまでに感じる。
むき出しの岩の上ではなく森の中を進んでいくため、頭上は木々に覆われ、いい感じに日陰ができる。お陰で暑くない。
「さっきと比べると楽だね」
「まぁねぇ。でも油断してるt……」
「あぐっ」
「……ほーら言わんこっちゃない」
思いっきり足を滑らした。こけたとも言える。痛い。
「完全に油断してました……」
「山道って木の根っこがむき出してるとか地面が凸凹してるとかで気を抜くとすぐバランス崩すんだよね。あと頭ぶつけたりね」
笑いながら手を出して私が立ち上がるのを助けてくれた。
その後は特に問題なく……ということもなく、多分6回ぐらい滑ったりつまづいたりしてこけた。その度に知美が「ばーかばーか」って言いながら爆笑するのだから腹が立つ。ばかって言う方がばかなんだよぅ!
途中でゴルフ場の舗装道を通ったり、川を横切ったりとバラエティに富んでいる。なるほど知美が力説するのもわかる気がした。
特別急な道もなく、程なくして雨ヶ峠と呼ばれるポイントに到着。屋根付きの休憩所が設置されてるため、小腹も空いているし軽くご飯を食べることにする。知美曰く行動食と言うらしい。
ここで登場、おにぎり。山といったらコレな気がする。
味付けが塩のみというシンプルな代物だが、何故だろう凄く美味しい。朝早く起きて握った甲斐があった。
対して知美はというと何やら棒のようなものを食べている。
「それ何?」
「CMとかでもやってるの知らない? 百本満足バーとかそんなの」
「んー…あ、そんなのあったね」
「味のバリエーション多いし何より持ち運びしやすいからオススメだよ。」
「へぇ」
ゴールではないため、ご飯は軽く済ませ休憩終了。
ただ…見たらわかるのだがここから先が今までと違うのだ。明らかに急。しかも石がごろごろ転がってるし。
「誰が見ても『うえぇ』ってわかる顔してるね夢衣。もーちょっとだから頑張ろ? ね?」
「うん……私頑張る……」
と励まされ、なんとか重い足を前に進める。
ふと気がついた。
この登山道、頭上に木がない分日が差すからかなり暑い。さっきまで全然汗をかいてなかったのに、今出は汗が止まらないのだ。ようやく知美が「化学繊維!!」って言ってた理由が分かった。これ、綿とか来てたら汗吸い込んでベットベトになるやつだ。4月だからといって侮ってはいけなかった。不快感で死ねる。
疲れのせいか、喋る気力すら失せてきた。知美はといえばぴょんぴょん跳ねるかのように進んでいる。ていうか比喩表現は付けなくても良かったかもしれない。マジで跳ねている……。これが元運動部との差か……。
無心でどれぐらい歩いただろうか。多分1〜2時間は歩いてる。しかし景色は変わらず、一向に森の中。足元はずっと砂利道。終わりが見えないと段々嫌気がさしてくる。しんどいしなんでこんなとこ来たんだろうとか、こんなことやる意味あるのかとか負の感情ばかり抱いてしまう。
「あともうちょいだからさ、頑張れっ」
そんな私の気持ちを察してか、また励ましてくれた。知美の顔から本気で私を心配している事が読み取れてしまった。着いて行くって言ったのは私なんだからここで挫けちゃ人間としてどうかと思う。
「ごめんね」
と一言言って、気持ちを切り替えまた足を1歩ずつ進ませる。
「あっ、あれって……」
「そ。お待たせしたね」
そこから15分ぐらいだろうか、遂に目の前に森の終わりが見えた。人間不思議なもので、終わりが見えると疲れが一気に吹き飛ぶものだ。あれだけぜぇぜぇ息切れをしながら歩いてたのに、人目見ただけでそれまでの疲労が無くなったように感じた。
そして森を抜け、視界が一気に開ける。
六甲山最高峰のすぐ近く、一軒茶屋に到着である。小さな建物であるが、中は登山客で賑わっている。その中にはビール片手に1杯決めている人も。
「ここでかき氷食べるのが楽しみだったんだよね〜。入ろ入ろ!」
「かき氷……? まぁ休憩出来ればなんでもいいよ…疲れた……」
と、いうことで……。
いかにも荒削りなかき氷!それを一気に掻き込む!
最初は4月なのにかき氷?と頭に疑問符が出てきたが、一口でそんな疑問はどこかへ吹っ飛んでった。歩き倒して火照った体に最高……。ほぅ、とため息がでる。
しかし時間差で2人に悲劇(笑)が!
「ーーーーーっ!!!あーーーっ!!!!」
まぁあれだけ掻き込んだら誰でも予想は出来るでしょう。痛みで盛大に頭を抱えることになりましたとさ。
かき氷を食べ終え、いざ山頂へ。と言ってもここまで来れば山頂まで数分という距離であり、道も舗装され楽に行けるようになっている。
そして遂に本日のゴールに到着。さっき存分に休憩したから息切れはしてないが、足はパンパンに膨れ上がっていた。
「ふおぉ……凄いよこれ……」
目の前の景色はロックガーデンの時との差が一目瞭然であった。神戸のみならず、大阪など他の府県の街並みまで一望でき、まるで鳥になった気分だ。ここまで来た者しか見ることが出来ない景色とあって、眼科には素晴らしい景色が広がっていた。
そして奥には「六甲山最高峰、931m」と書かれた柱が立っていた。ここまで自分の足で登ってきたのか…とえも言われぬ充実感を感じた。
「お昼ご飯〜〜〜!!」
「うひゃあ!?」
物思いにふけってるのにいきなり隣で大声を出されたらびっくりしないわけがない。
「実はもうお腹ペコペコで……」
「はいはい、私も同じだよ。知美は何食べるの?」
「山頂でご飯と言えばコレしかない!」
と言って堂々と掲げたのはカップ麺。……お湯とかどーすんの?
「ふっふっふっー。私を誰だと思っている?知美様が準備を怠るわけが無いじゃないか!!」
「変なキャラ作らなくていいから」
ツッコミ(物理)を入れてやった。
「あう……これ使って沸かすんだよ」
と言って取りだしたのは妙な形をしたガスの缶と小さな鉄の塊……?
「登山用ガスバーナー。専用のガス缶にねじ込み口があるから、それにはめ込んでから点火スイッチを押すと……ほら!」
「おぉ〜」
ボッ!という音とともに火が勢いよく吹き出した。こんな小さな器具で結構な火力が出るのか、って思うほどには強火だった。
「沸くまでちょーっと暇がかかるから夢衣が持ってきたおにぎりを頂きまして……」
「え? あげないよ?」
「え”っ”……まじですか……?」
それはもう悲しいとしか言えない顔された。
「嘘よ。冗談です」
と言って渡した瞬間笑顔になるんだから面白い。コロコロ表情が変わるもんだから弄り甲斐があるなぁ……。
「よっし沸いた!あと3分待ってね」
そう言われて待つこと3分。ついにカップ麺が完成した。
何の変哲もないただのカップ麺だが、果たして味はどうなのか。
ズルズルと勢いよく麺をすすり、スープも口元へ。そしてカップ麺を置きぷはぁ……と。
「何これ超美味いんだけど。何これ」
今まで食べたカップ麺と全然違う。いや違うことは無いのだが何かが違う。明らかに違う。
「ふふーん。これが山で食べるカップ麺の威力だ!」
「馬鹿にしてすみませんでした最高です」
「馬鹿にしてたの!?」
「主に知美を」
「もっと駄目だよ!?」
山頂マジックとでも名付けたらいいのか分からないが、とにかく美味しかった。
「あっ……」
気がつけば自分の分が無くなっていた。完食。
「山をバックにカップ麺を勢いよく食べる女子大生ってのもいい絵ですねぇ。そう思いませんか夢衣さん?」
…!
「写真、今すぐ消せーっ!!」
山頂でカップ麺含めたご飯を堪能したあと、登頂記念に写真撮影。他の登山客に頼んで撮ってもらった。
ここから下山になるのだが、登りと違って疲れにくい分とにかく早い。来た道をちょっと戻り、看板に従って有馬方面へと進む。
これで荷物が重いと足の負担がえげつないのだが、今回は少ないので大丈夫そうだ。他愛もない話をしながらどんどん山道を下っていく。疲れないから気分も良い。
しかし私が順調順調〜と思って下っていたその時!頭から鈍い音が!
「油断してると危ないよって登りの時にもいったじゃん。夢衣って身長高いんだしさぁ。馬鹿なの?ねぇ馬鹿なの?」
はい。今度は木に頭をぶつけました。凄く痛いです。馬鹿ですよーだ。くそぅ……。
「私は慣れてるからぶつけるなんてことは無いね!」
「そんなフラグめいたこと言っちゃって大丈夫?」
「だいじょうb」
刹那、視界から知美が消えた。足元を見ると頭を抱えて悶絶してる人が1名。余裕をぶっこいてた知美だった。
「痛い……」
頭をぶつけた挙句そこそこのスピードで歩いていたため、慣性に逆らうことが出来ず尻もちをついていた。
「……馬鹿なの?ねぇ馬鹿なの?ねぇねぇねぇねぇ」
「ごめんって〜〜〜」
「漫画みたいにフラグ回収したね。こんなの滅多に見ないよ」
「軽はずみな発言を反省してます……」
それ以降、特に事故が起きることは無かった。
ひたすら山道を下り、時々水分補給を挟み降り続けること1時間とちょっと。森が終わり、突然建物が沢山現れた。六甲山の麓に位置する有馬温泉街である。
温泉と聞いて黙ってる人なんていないだろう。無論私もそうだ。温泉街を通るなんて考えもしなかったため、今嬉しさで飛び上がりそうだ。
「温泉! 温泉!! 温泉!!! 入ろう!?」
「もっちろんそのつもりだよ!汗流したいしね〜。ところで夢衣さん、金と銀どっちがいい?」
「ふぇ?」
有馬温泉と言ったら金/銀の湯を思い浮かべる人が多いだろう。それぞれ金色の湯と銀色の湯があるからこの名前が付いたのだが、好みが別れるのだ。
「うーん……名前的に金、かなぁ……?」
「了解! んじゃとっとと行こっか」
というわけで到着。有馬温泉、金の湯。外観も金をモチーフとした作りになっている。受付を済ませ、いざ浴場へ。
掛け湯をし、汗まみれなので体を洗っていざ入浴。
「はぁ〜〜〜……染みるわぁ〜……」
とにかく最高の一言に尽きる。疲れていた体に温かいお湯が染み渡り、疲れが飛んでいく。しかし流石金の湯と言うだけあって、お湯の色が金色に近い。にごり湯で足すら見えない。
「疲れた後のお風呂って何でこんなに気持ちいいんだろうね?何回入っても分かんないよ」
気持ちよさそうな顔で風呂に浸かる知美。
……知美の体と自分の体と見比べ、その格差を嫌でも実感させられる。まな板とわがままボディ(私に言わせりゃある程度出てたら全部そうなるのだ)ですよ?これで実感すんなってのが無理な話である。
リフレッシュ完了。今まで入った風呂の中で最高だった。
これであとは帰るだけ。観光地なのだが、如何せん歩き倒して疲れてるから早く帰りたい。眠い。寝たい。
ここからは電車を乗り継いで帰宅。
あまりに眠過ぎて何駅か寝過ごしたのは内緒である。
疲れたけど行ってよかったと思う。
また行こうかな……
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