続き

「うそ、うそだよ、こんなの違う……」


 ――以降、画面外にて。


 ――正気を失いつつある未来。ポケットから財布が落ちたことに全く気付いていない。


「そ、そうだ。こんなことにならないように、自分に知らせないと……確か、どこかに……」


 ――カラン。少し離れたところで空き缶の転がる音。未来がそちらを見やると、小さく顔を出した別の未来がいた。


「――いた。ふふ、教えてあげよう」


「やばっ、アイツこっち見てる……やばい走ってきた――」


「なんで逃げるの。こっちは親切心なのに……追いかけないと」


 ――逃げる未来と追う未来。追う側はフードを被ったため、ただの不審者にしか見えない。


 ――未来は追って例の小路に入る。先攻する未来に追いつくべくペースをあげるが、背中に触れる前に小路を抜け、先刻までいた夜の通りに戻された。


「……アタシいないじゃん。また飛んだのか、ふざけやがって。

 まあいいや、この辺歩いてればどっかに隠れてるでしょ。って、カメラないのに喋ってどうすんの」


 ――ポケットに手を突っ込みながら周囲を警戒する未来。


 ――だがすぐ、未来は目的の人物を見つけた。自分と同じ格好の……彼女から見た過去の未来である。


「(もうこの際あの自分でいいや。びっくりさせないように、肩叩くのがいいかな――なんか、デジャヴが……)」


 ――ふつふつと湧く違和感をかぶりを振って無視し、未来は目の前の自分の肩を叩いた。


 ――その瞬間。


「っ! お前かっ……!?」


 ――もう一人の未来はカメラを投げ捨て、思いっきり突き飛ばしてから凄まじい形相で何度も何度も殴りかかる。


「クソッ、お前か、お前のせいか!? お前がやったんだろっ!?」

「(い、痛いッ! 苦しっ……い、息が……!)」


 ――未来は一切抵抗できず、されるがまま顔を殴られ続ける。顔面のあちこちが膨れ上がり、皮膚が裂けはじめ、血飛沫が飛ぶ。


 ――殴打に加え、拳と拳を合わせて振り下ろすなど殺意のこもった一撃も混ざる。未来の顔はすでに原型を留めておらず、元の姿の見る影もない。


「(……もう、言葉もない。痛みが、限界で……何も、見えない)」


 ――次第に感覚が失われ、痛覚も、視覚も、ブツッという音と共に聴覚すら無くなる。血が詰まったせいか、うめき声の一つも出ない。


「(――あ、歌子だ。おいしそうな弁当だなぁ、おかず分けてくれたりしないかな。凪ちゃんの方は……そっちもおいしそう……迷っちゃうなぁ……)」


 ――全てが失われた未来は、幻にすがるほかできることはなかった。なんてことない日常の一コマに。


 ――かろうじてできていた呼吸も、まもなく止まる。お腹がゆっくりとしぼんでいき、やがて。


「(配信、終わらせ、ないとな。カメラと、えっと、事件の……え、っと――……)」


 ――未来の意識は深い谷へと沈んでいき、二度と戻ってくることはなかった。






 ――一週間後、身元不明の遺体が見つかった、と大々的に報道される。深夜とはいえ道の真ん中で行われた大胆な犯行、確証が一切ない証拠群や、ほとんど手がかりにならない痕跡……それらは多くの推測を生んだが、どれも的外れなものばかりであった。


 ――さらに数か月経った頃、ようやく遺体の身元が判明する。


 ――その者の名は……。



【一過性怪異奇譚 ”行動が収束した未来は?”】 了

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