第41話 帰って来た奴隷達
セシリアが帰ってきた。また、夜中に姿を見せた。慎重である。
ダンジョン地下一階を見上げて、待っているようである。
風魔法をセシリアに纏わせて浮上させる。前回と同じだ。
「おかえり、セシリア」
「ただいま。主様」
地下一階の森で、セシリアに食事を出す。今度は、味わいながら食べている。
今回は資金的に楽だったのだろう。
セシリアが食べ終わったので、報告を聞く。
「騎士と勇者について何か分かりましたか?」
「騎士は全員王城に集まっているそうです。それで、各街の治安に不安が出始めています。木材や石材などを片っ端から集めて運んでいたので、何かしらの土木工事を行うみたいですね。勇者は、途中から情報が途絶えたので分かりませんでした」
思案する。土木工事? 王都は住めなくした。遷都が一番簡単なはずだ。
何を考えている? 理解出来なかった。
それと勇者の情報が途絶えたか……。エルフ族が動いたのかもしれないな。雷帝であれば、いかに勇者の称号を持つ者とはいえ、人族など歯牙にもかけないだろう。
雷帝は、自分が作ったこの国の隙を突くつもりだろうか? 氷の王女はどう動く?
思索を続ける。
「主様。続きを話しても良いでしょうか?」
「ああ、すまない。話を聞かせてください」
「それとなのですけど、『鬼人の勇者』を見かけたと話を聞きました。私は、噂を聞いただけなのですけどね」
聞いたことない言葉だ。なんだろう、鬼人の勇者って。
「鬼人の勇者とはなんですか?」
「え~と。九十年前かな? 風の勇者を助けた幻の鬼人が現れたのです。その後、国の危機に颯爽と現れるそうです。前回は、五年前に魔王を討ったらしいです」
風の村を助けたことかな? それと、テオドラの父親の仇か。今は、ダンジョン地下一層で話をしていて良かった。テオドラには聞かせたくない話である。
「そうなると、勇者は二人いるのですか?」
「そうですよ?」
この世界の勇者とは、『世界に数人だけダンジョンを壊せる人』を指していると以前聞いた。複数人いるとはそうゆうことか。警戒すべきなのは、鬼人の勇者の方だろうな。
「王都はどうなっているか分かりますか?」
「? 私が訪れた時は、変わりありませんでした」
ファイアバインドの効果を知りたかったが、セシリアは初めに王都に寄ってから各街を周ったのだろう。行き違いになっていたのだな。まあ、いいか。
その後、話をするが有益な情報は手に入らなかった。
この後、虚空のダンジョンには鬼人の勇者が来るはずである。セシリアは巻き込みたくないな。
いや、この後は人族全ての街が混乱を起こすだろう。
セシリアには、戦火を避けて貰うか。
「セシリア。風の村は知っていますか?」
「はい。迫害はないけど、外に出る自由も奪われる村ですよね」
「その村を拠点にして、一ヵ月くらい情報収集をして来てください。多分、人族の各街は、混乱が起きると思います」
セシリアは驚愕の表情だ。だが、黙って頷いてくれた。
硬貨の入った袋を渡して、ダンジョン地下一層から降りて貰った。
セシリアならば、危険を事前察知して戦火を避けてくれるだろう。
こうしてセシリアは、ダンジョンを後にした。
◇
ルイスが帰ってきた。今度は夜中だ。学習してくれたのだろう。
風魔法を使用し【浮遊】させて、ダンジョン地下一階に引き上げる。前回と同じだが、暴れるようなことはなく落ち着いていた。
ルイスもダンジョン地下一層で、話を聞くことにした。
「おかえり、ルイス」
「……ただいま。主様」
少し表情が暗いな。
「獣人の王様になりえる人材はいましたか?」
「……いませんでした。獣人族は文化レベルが低いのです。人族と断絶などすれば、文化的にかなり遅れを取ってしまいます」
文化的な遅れ……か。ルイスの手を見る。あの手の形では、細かい作業は無理か。
獣人の独立は、無理があるかもしれないな。食はともかくとして、衣類と住居がかなりお粗末になることが予想出来る。
だが、隷属は止めさせたい。思案のしどころである。
ルイスは、知能の高い獣人を探したのだと、想像する。
自分は、求心力を持つ者を求めていたのだが、現実を知るルイスの方が正しいかもしれない。
その後、ルイスがどのように動いたかを聞くと、なんと最後に王都だった。
「王都の状況を教えてください」
「王都は大混乱でした。庶民は続々と出て行ってます。それと、王都の東側に新しく王城を作るみたいです」
「遷都ではなく、新城を建設ですか? なぜそんな無駄なことを?」
「僕にも分かりません。ただ……、騎士の人ですら辛そうでした。労役奴隷など休みも無く……」
分からない。王族の考えが理解出来ない。
まあ良い。嫌がらせとしては、新しい王城が出来上がる寸前にファイアバインドを解除するだけだ。
それと、新城にファイアバインドかな~。芸が無さすぎる気もするが、それが一番効果的であろう。
まあ、当分先である。都度調整して行こう。
「他の街はどうですか?」
「独立の意見が出始めています。ただ、騎士が怖いので冒険者を大量に囲い込んだ街でないと独立は無理でしょう」
武力による弾圧など簡単に覆せると思うが、まあ各街の領主次第なのだろう。
「エルフと獣人は、仲は悪いとかありますか?」
「う~ん。遺恨はないですが……、良くも悪くもないと言ったところですかね。魔人についても同じです。そもそも草原を好んで住む種族であり、生産が苦手なのです。エルフ族と魔人族とは交流が少なかったので、不干渉と言ったところです」
「なんか、獣人は魅力に欠けますね」
「魔法抜きの戦闘ならダントツで獣人ですよ? 身体能力が違います」
なるほど。今は空間魔法が便利すぎて獣人の優位性が失われているのか……。これは思案のしどころだ。
とりあえず、獣人の独立は諦めるか。時間をかけて、獣人のみで優位性を確立して貰わないと、後が続かない。
その後、ルイスにも風の村に移動するように指示を出した。
これで、大体の情報は出そろったかな?
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