第40話 帰って来たダンジョン

 ハルカのダンジョンに帰って来た。世間一般には、『虚空のダンジョン』と呼ばれているが、自分は『ハルカのダンジョン』と呼びたい。その方がしっくり来る。

 今は夜中なので誰にも見られていない。一応、周りを見渡した。

 風魔法で体を浮かせて、ダンジョン地下一層に降り立った。見た感じは、何も変わっていないな。自分が不在の間に襲撃はなかったと思う。

 そんなことを考えていると、【転移】が起きた。



「ただいま、ハルカ。テオドラ」


「「おかえり」」


 とりあえず、無事な二人の笑顔を見て、自分も釣られて笑ってしまった。


 お茶を入れて貰い、ダンジョンルームで三人で話し始める。

 まず、ハルカとテオドラに、氷の王女と雷帝について話し、そして、新魔法の効果と風の村、王都の様子も話した。



「大体分かったわ。それで、変な精霊が憑いているのね」


「え?」


「ハルカ。ソラは精霊が見えんのじゃ。言われるまで気が付いておらなんだぞ」


 二人が笑う。


「もしかして、氷と雷の精霊のことですか?」


「そうよ。でも、あまり好かれてはいなさそうね」


 首を傾げる。


「ソラは、姉上と雷帝に気に入られようとはしなかったのじゃな。二人に会ったので、精霊は一応憑いて来てくれたというじゃけじゃな」


 二人は、聞こえるようにヒソヒソと何かを言い始めた。そういうのは止めて欲しいな……。

 まあ良い。精霊が自分に憑いているのか……。

 右手に魔力を集めて、温度を下げるようにイメージしてみる。

 指先から、水滴が落ちた。


「……、手が湿る程度にしか効果が出ないか」


「もっと効果が欲しいのであれば、姉上に頼むのじゃな」


「必要性を感じたらまた会いに行きますよ」


 次に行こう。

 右手と左手の指先を合わせる。人差し指と親指で輪を作り、魔力を流すイメージ。

 そして、親指を僅かに離す。


 ──パチパチ


 ……しょぼい。線香花火かよ。

 それを見た二人は、大爆笑だ。


「雷帝に頭を下げに、もう一度行って来たら? それと、ダンジョンマスターに属性の指輪を見せることを忘れていたね。あのダンジョンでも複製品が作れれば、世界に一気に広まったのに」


 ……、え?


「もしかして、見てたの?」


「うふふ。秘密」


 ため息しか出ないよ。何でこう思い通りに進まないのかな。

 でも、結構興味が出て来た。バインドと組み合わせてみるか。


「ブリザドバインド!」


「「おお!」」


 ハルカとテオドラの驚愕の声が聞こえた。自分のバインドは精霊を介さないのでイメージさえ出来れば発現出来る。

 しかし、バインドは『拘束』であり、氷魔法も拘束がメインだ。相性は良いが、効果がダブっているな。

 次に行こう。


「サンダーバインド!」


「ソラ、それはちょっと効果が低すぎない?」


 ハルカが疑問を投げかけて来た。


「自分の前の世界で、雷は『速度』を司る物でした。バインドとは相性が良くないので、空間制圧に用います」


「定空珠とダブっていない?」


「う~ん。効果は近いかもしれないですけど、発動条件が異なっているので、保険ですかね」


「そんなものなんだ?」


 ハルカとテオドラは、首を傾げた。




「それじゃあ、今度はハルカ達の状況を教えてください」


「騎士が来たくらいかな? 宝箱をダンジョン一層に置いておいたから回収して帰って行ったわ」


 とりあえず、自分が不在でもなんとかなりそうだな。


「ルイスとセシリアは?」


「戻って来なかったわ。まだ、情報を探しているんじゃないかな? そうゆう命令を出したのでしょう?」


 ルイスには、獣人の王様になりえる人材を探して貰っている。セシリアには、騎士と勇者についてだ。

 だけど、少し人の世界を見て来たのだけど、今の考えではダメかもしれないな。

 明確に『魔王を倒せ』とかの方が簡単だったのだが。

 この世界の攻略は、なかなかに難しい。


「それじゃあ、自分は少し寝ますので、何かあれば起こしてください」


「はぁ~。また寝るのね。ソラが一度寝始めると数日は目覚めないのよね」


「添い寝はしておらんのか?」


「だって、ヘタレだもん。氷の王女と雷帝にも手を出さなかったし」


「それもそうじゃの。こんな美少女を二人も従えて何もなしじゃしな」


 酷い言われようである。

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