第39話 帰路

 雷帝とは戦闘にならなくて良かった。

 だけど、説得は無理そうだな。

 ……、戦争による遺恨か。百年前の元日本人は本当に面倒なことをしてくれた。


 歩きながら考える。

 氷の王女は、この世界のために幽閉を受け入れていると思われる。同族を殺されても、人族と共に生きることを選んだのだろう。同族の助命嘆願などすれば、弱点を握られるので独りでいるのだろうな。

 ああ見えて悩んでいると思う。

 親を殺されて、妹は行方知れずだが探しにも行けない。

 そして、なにも出来ない日々……。


 雷帝は、下の者達を纏め上げるのに苦労しているのだろうな。

 不満を持ったエルフ族が特攻しないように方便を述べていると思った。魔力を持たぬ人族が増えるまで待つように説得しているのだろう。

 魔力の有無は、生まれで決まる。同族でも魔力を持たぬ者を保護した方が良いに決まっている。だが、それをあえてしていないところに矛盾を感じた。

 こちらも、何も出来ずに時間だけを浪費している感じだ。


「人族の王制を崩すか……」


 それが自分の結論であった。

 王族を追放して、人族に混乱を生み出し、その隙に国境を引く。

 後は、魔人族とエルフ族に空間魔法対策を教えれば、休戦に持っていけるだろう。


 この世界の問題は、人族が多すぎるのと空間魔法が優秀すぎる点だろう。この点を崩せば、精霊の機嫌も取れると思う。

 そんなことを考えている時であった。


「止まれ!!」


 後ろを振り向くと、騎士が追いかけて来た。空を見上げると【飛翔】している騎士もいる。


「そういえば忘れてた。遅いって……」


 騎士達は、自分を取り囲んで来た。

 ため息しか出ない。


「自分に御用ですか?」


「とぼけやがって! 今度こそ着いて来て貰うぞ!!」


 ん? 一度追い返した人かな? 顔は覚えていないや。

 さて、どうするかな……。

 斥力陣は、常時発動しているので彼等の攻撃は自分には届かない。

 そんなことを考えると、騎士が抜刀し始めた。

 いやさあ、不意打ちで来ても良いのだけどな。騎士だから、卑怯な真似はしないのかな?


「まあいいや、蹴散らすか」


 自分の独り言に騎士達は、キレたようだ。一斉に【空間切断】を放って来た。

 当然の如く、斥力陣に触れた【空間切断】は、明後日の方向に飛んで行く。そして、360度取り囲んでいるので味方に被弾している。この世界の戦争は、原始人レベルだな。



 光魔法:炎光棒



 自分は、光る棍棒を創造した。それを振るって騎士を打ち据えて行く。そうすると、今度は上空からの攻撃だ。味方の被弾覚悟の上の攻撃はどうかと思う。

 墜落させても良いのだが、ここは別な方法で対処しよう。

 今いる街道の南側は森林であったため、姿を隠すために移動する。

 そうすると、騎士による樹の伐採が始まった。倒木を避けながら、森林の奥へと進んで行く。

 【飛翔】出来る騎士は、全員森林に入ったようだ。散会しながら目視で自分を探している。



 光魔法:照明弾



「ぐわ~。目が、目が~~」


 騎士達は、顔を抑えて苦しんでいる。

 これで、短時間だが無力化出来るだろう。それでは、拘束と行くか。



 植物魔法:枝襲捕絡



 樹の枝を操作して、騎士を襲う。本当は枝の先で刺しても良いのだが、今回は捕獲するために手足に枝を絡ませる。

 森林全てが、樹木トレントの魔物に変わったようなものだ。一気に阿鼻叫喚の世界になった。

 自分は、森林のフィールドでは結構強いのかもしれないな。

 エルフの住んでいるダンジョンでは、植物への操作権が無さそうなので使えそうになかったが。





 今は、騎士全員をボコって一人で佇んでいる。

 とりあえず、死者は出ない程度に加減はしておいた。

 彼等には、またメッセンジャーになって貰おう。


 騎士を見回すと、一人水筒を持っていた。水筒を奪い魔法を掛ける。



 回復魔法:回復液生成



 自分は、水筒の中の液体をポーションに変えた。

 それを一番初めに話しかけて来た騎士に渡す。

 兜に羽が付いているので、隊長とかなのだろう。


「これが欲しかったのですよね? 確認のため飲んで貰えますか?」


 隊長さんは、一瞬躊躇ったが飲んでくれた。


「……、こんなに簡単にポーションが作れるのか?」


「水魔法の応用ですよ。ポーションの成分を魔法で再現しただけです。魔法は発想次第で何でも出来て便利ですね」


「その口ぶりからすると、本当に異世界からの来訪者なのか?」


「ええ、そうですよ。元日本人です」


 驚く、隊長さん。


「空間魔法も元日本人が考案したのですよね? 回復魔法も自分達で考案してみては? 魔法は想像力さえあれば、発現させるのはそれほど難しくないですよ?」


「はは。百年前の我々の祖先と同じことをさせようと言うのか」


「回復魔法を求めている人に、空間魔法はもう対策が立てられたと伝えてください。それと、光る杖と重力操作、植物操作で撃退されたとも。再現出来るかどうかは任せます」


 隊長さんは、何も言わずに考え出した。


 もう、話すこともなかったのでその場を後にする。

 怪我した騎士達は、……まあ、自分達でなんとかしてくれ。

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