第37話 移動の途中で2

 宿屋で朝食を頂き、十日分の食料とマントを受け取った。

 マントは、深い緑色だった。まあ、派手ではないので良いのだが、マントを着るのはちょっと恥ずかしかったりもする。

 それと、スカーフをおまけで頂いた。砂嵐とか発生するので、旅には必須なのだそうだ。

 この辺は、インドア派だった自分にはなかった知識である。

 ありがたくスカーフを頂いて、村を後にした。


 三日ほど歩くと、王都が見えた。

 話を聞く限り、いけ好かない王族……。少し嫌がらせして行くか。


 この数日で火の属性の指輪には、魔力が十分に溜まった。今なら大規模魔法も可能だ。

 一瞬だけ、王都より大きな魔方陣を展開する。効果範囲の指定だ。属性の指輪三個分の魔力を使う。


「ファイアバインド!」


 効果は、鎮火だ。本当は対人用に考えていたのだが、今のところ必要はなかった。本来の用途は、効果範囲の温度を上げたり下げたりすることを想定していたが、他の三属性で十分すぎた。

 対複数戦用に考えていたが、今後使うこともあるかもしれない。とりあえず温存だ。

 それと、王都は今後二度と人の住めない土地になるだろう。これだけでも、王政の廃止に動いてくれると助かるが、まあ、遷都するだろうな。

 ファイアバインドは火魔法で解除出来るが、属性の指輪三個分の魔力を消費するとなると、一万人くらいの人が魔力枯渇状態まで魔法を使用しなければ、解除は無理であろう。まあ、これは答えを知っている自分だから言える。

 これで、時間稼ぎにはなるはずである。その間に、やらなければならないことを済ませてしまおう。

 そのまま、王都に寄ることはせずに、南のダンジョンに向かった。





 村を出てから十日が過ぎた。

 不思議と騎士は追って来なかった。結構目立つことをしたと思うのだが、何かあったかもしれない。

 でも、回復魔法は魅力だと思うし、火の砦では結構破壊してしまった。氷の王女がだが……。

 追って来ない理由が分からない。

 まあ良いか。騎士をボコって数を減らす目的だったが、多分忙しいのであろう。

 今の自分であれば、囲まれても問題がない。騎士は後回しだ。



「ここかな?」


 セシリアに教えて貰った場所に着いた。

 目の前には、大森林がそびえ立っている。


「……ダンジョンの入り口はどこだろう?」


 食料は数日分しかない。水もほぼ飲み干している。どう考えても、ダンジョン踏破の装備ではない。

 一度、近くの街にでも寄ってから再度出直すか。

 そう考えていた時であった。


「異界からの来られた方ですね。お待ちしておりました」


 森から、誰かが出て来た。耳が長く、特徴がセシリアに似ている。

 ……エルフのようだ。



 とりあえず木陰で、倒木を椅子にして座る。


「え~と。とりあえず知っているかもしれませんが、自分はソラと言います。元日本人です」


 エルフの女性は、クスクスと笑った。


「はい。ご存じですよ。この世界に混乱を貰らしている『魔王』の噂が立っている方ですね。でもご安心ください。『雷帝』は、精霊から情報を得ていますので、あなたがどのような方かご存じです」


 ……氷の王女は何も知らなかったけど、雷帝はまともそうだな。


「お名前をお聞きしてもよろしいですか?」


「あ、失礼しました。私は、ヘレンと言います」


「ヘレンさん。自分は雷帝に会って、今度の方針を決めたいと思って来ました。面会の許可を取って頂けますか?」


「あ、もちろん大丈夫です。ご案内致しますね」


 あまりにもすんなり行き過ぎだな。罠の可能性も考慮しておこう。

 それと、自分は『魔王』呼ばわりされているのか……。まあ、混乱を起こしているのである。冒険者や騎士を殺害してるし……。

 魔王っちゃ、魔王か……な?





 森林に一歩踏み込むと、空気が変わったのが分かった。

 空間が違う。ダンジョンに入ったということだろう。虚空のダンジョンの地下一層に近いな。

 ヘレンさんが進むと、木々が移動して道が出来始めた。植物が移動するのはファンタジーである。こうなると、このダンジョンは、植物全てが襲って来る可能性があるということだろう。

 もっと怖いのが、酸素濃度の変更とかかな? 

 それに土魔法まで加われば、まず踏破は無理であろう。

 自分に出来るのは、火を付けてから『ファイアバインド』が一番効果的かな。森林火災に紛れて逃げるか。

 風魔法や土魔法では、相殺は出来るが圧倒するのは無理であろう。なにせここはダンジョンだしな。

 そんなことを考えている時であった。


「余計なことは考えないでくださいね。こちらは平和的に交渉したいと思っているので」


 思考を読まれた? いや、表情に出ていたか……。


「失礼しました。単身で乗り込んで来たとはいえ、怖そうなダンジョンだったので余計な思考をしてしまいました」


「頭の良い方なのですね。でも、無意味ですよ?」


 まあ、そうだな。予備知識もなく、誘われるままダンジョンに入ったのである。

 抵抗しようものならば、即座に拘束されるだろう。


 まあ良い。絶体絶命の窮地での交渉。

 面白いじゃないか。


 自分は、薄い笑みを浮かべた。

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