第35話 氷の王女3
氷の王女を担いで、火の砦を後にした。
とりあえず、近くに森林があったので身を隠すために入る。もはや、誘拐犯である。
遠目から火の砦を見ると、城壁が崩れていた。
自分の行動はどう取られるだろうか? 客観的に見て、氷の王女を挑発して砦を破壊し、誘拐……?
結構な
とりあえず、森林の中を進んで、少し開けた場所に出た。小川も流れている。キャンプ場はここで良いだろう。
氷の王女を下して、回復魔法をかける。
一応、目に見える外傷は全て治療した。後は魔力切れを起こしての気絶だと思うのでしばらく待てば起きるだろう。
改めて氷の王女を見る。本当にテオドラに似ているな。そして膨大な魔力と、『この世界の柱』としての存在。
この人が、新しい魔王となってくれれば、魔人族も立て直しが出来るだろう。
人族が何を考えているかが分からないが、魔人族との休戦協定を結ばせるのが理想だろう。
「……う」
起きたようだ。
少し離れた位置で倒木を椅子にして座る。
氷の王女は、自分を見てため息を付いた。
「……つまらん奴じゃのう。ここは、手足を拘束して体を貪る場面じゃろうに」
思考がオヤジかよ。今度は自分がため息を付いた。
「話を聞いて貰えますか? テオドラも心配していました」
「その分じゃと、テオドラにも手を出しておらんな? 妹は素直な性格じゃからな。股間で従わせれば、思い通りになるじゃろうて」
ニヤニヤと嗤う、氷の王女。
とても面倒な性格である。
「質問です。あなたは軟禁されていて、テオドラが放浪していたのは何故ですか?」
「『この世界の柱』以外の魔人族は滅ぼそうというのが、人族の考えじゃぞ? 何が不思議なのじゃ? まあ、父上はあまりにも抵抗したので殺されてしもうたがな」
少し驚く。
「先代の魔王は、『この世界の柱』だったのですか?」
「? そうじゃが? 水の精霊に愛された『柱』であった。テオドラから聞いておらんのか?」
思案する。人族の行動が理解出来ない。
「……人族の行動原理が理解出来ませんね」
「まあ、単純な話じゃ。もし仮に『柱』が生まれるのであれば、今は人族以外の種族になる。それが認められないので他種族を殺害し、絶対数を上げて人族の『柱』を増やそうとしておる」
「そんなことが可能なのですか?」
「無理に決まっておろう。今のこの世界の精霊は、人族をとにかく嫌っておる。それと、父上を殺害したのでさらに精霊は逃げて行ってしまったのじゃ」
「そのことを教えていますか?」
「……話すわけがなかろう? 妾も人族には同族を殺された恨みがある。魔法が使えなくなり自滅するのであればそれで良いと思うておる。最近の言葉を使えば、『ざまぁ~』かの?」
頭をガリガリと掻く。
この人は、人族を追い詰めて復讐しようとしているのか。
とりあえず、考えは分かったので、話題を変えよう。
「テオドラは、『この世界の柱』になりました。精霊と会話出来ているそうです」
驚く、氷の王女。
「何を言っておる? テオドラは魔力が無いのじゃぞ?」
オリジナルの属性の指輪を見せる。
「自分は、異世界よりの転移者です。転移時に神様に会いました。その時に、『装備すると属性魔法が使える装備』を要求しました。今はダンジョンマスターに複製を頼んで、世界中にばら撒こうとしています」
さらに驚く、氷の王女。
「その話を信じろと?」
「精霊と会話出来るのですよね? 聞いてみてください。間違いを指摘して貰えれば、補足説明します」
氷の王女は、目を瞑り黙ってしまった。
そして、数分待つ。
「なるほどな。そなたの言っていることが理解出来たのじゃ。それにしてもテオドラを『この世界の柱』にするとわな。恐れ入ったのじゃ」
精霊と会話出来るのは便利なのだな。インターネットのありなし位に情報量に差がある。少しうらやましい。
「それでなのですが、テオドラに会いに行きますか?」
「……いや、妾は火の砦に戻ろう。姿を消しては、人族の魔人族への迫害が再燃しかねん」
一応、考えてはいるのか。
それと、疑問に思っていたことを聞いてみる。
「あなたの精霊の属性は、『氷』で合っていますか?」
「はは。そうじゃな。妾と『雷帝』以外には理解出来まい。四大属性の精霊が逃げ出して、それを見かねて他属性の精霊がこの世界に救援に来たのじゃ。精霊界も一応は危惧しておるみたいじゃ。
精霊の意思を聞けたのは大きいな。それと、他属性の精霊か……。
とりあえず、ハルカのダンジョンに来ないのであれば、ここまでで良いだろう。結構、情報が手に入った。
「何か欲しいものはありますか?」
「あそこは退屈なのじゃ、良い男が欲しいのう~」
ため息しか出ない。
「それでは、自分は姿を消します。依頼したいことが出来たらまた来ますので、協力をお願いしますね」
「……妾の頼みを断っておいて、頼みごとかえ? 本当にいけずじゃの~。股間で女を従わせる方法を覚えても損はないとおもうのじゃがの」
黙って、聞き流す。
こうして、氷の王女との顔合わせは終わった。
次は、『雷帝』だな。
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