第33話 氷の王女1
「ここかな?」
ルイスが『氷の王女』がいると言った場所に着いた。
城壁のある城といった感じだ。出来れば、穏便に中に入りたい。さっき騒ぎを起こしておいて何だが。
とりあえず、要らぬ混乱を避けるため属性の指輪を宝箱に仕舞う。後は、身分証とか言われないことを祈るだけだ。
冒険者が残して行った硬貨は持って来ているので、通行料は大丈夫だろう。
後は、自分が振り撒いた噂が、届いているかどうかかな? 最悪強硬突破も視野に入れよう。
自分は、砦の門の前に並んでいる列の最後尾に移動した。
結構行き当たりばったりになっているが、これはこれで楽しい。
列に並んで順番を待ち、門番に一礼した。
「旅の者なのですが、一晩の宿を求めて来ました。通行税とかありますか?」
「冒険者か? しかし黒一色の服とは、センスが無いな」
う……。センス無いか。でも、この世界で黒のフード付きのコートは珍しいかもしれないな。
「冒険者の資格は取れていません。まあ、魔力は持っていますけど」
「ふむ……。しかし、こんな辺境の火の砦に来るとは物好きだな。まあ、良いだろう。銀貨二枚で通してやる」
ダンジョンに侵入してきた冒険者から手に入れた硬貨を二枚渡す。特に疑われることもなく砦に入ることが出来た。
まだ自分の情報は、届いていないと見える。この世界の情報網は、まだまだ未成熟だな。
そして、『火の砦』か。四大属性魔法は廃れているのに、砦の名前に属性があるのか。
ちょっと不思議だ。
そのまま聞き込みを行うと、『氷の王女』は砦の中心に軟禁されていることが分かった。魔法陣が構築されており、すぐ分かるそうだ。
場所も分かったし、まず何か食べようか。ダンジョンから出て数日だが、干し肉しか食べていない。
屋台を見て回り、この世界の食糧事情を調査している時であった。
「あの、お昼がまだでしたら、あのお店はどうでしょうか?」
客引きかな? 営業スマイルを向けて来る、可愛いらしい女性が声をかけて来た。
断る理由もないし、良いか。
「それではお願いします」
とても良い笑顔の女性。
料理は、パスタとピザに近い物を選んでみた。味付けは塩のみだが、塩が効いており美味しかった。
今度、ハルカに香辛料を作って貰うか。世界中にばら撒けば、注目を集められるだろう。
余計な思考が過ったが、全て平らげた。
支払いとして、銅貨を5枚渡す。
「ごちそうさま。美味しかったです」
「ありがとうございました」
可愛いらしい女性に一礼してその場を後にした。
◇
ここかな?
砦の中心には、魔方陣が構築されておりその中心にポツンと建物が一軒だけあった。
これで軟禁になるのか? この魔法陣で拘束しているのだろうか?
不思議そうに見ていると声をかけられた。
「氷の王女を見に来たのか? 物好きだな」
そちらを振り向くと、町人といった、いたって普通の服装の男性がいた。
「面会は出来るのですか?」
「まあ、見たり声をかけたりは出来るが、あまり刺激しないことを進めるぞ? 暴れ出したらこの砦など潰されてしまうからな」
男性は、笑いながら怖いことを言っている。
「軟禁しているのではないのですか?」
「ん? 何も知らないのか? 氷の王女は、この世界を支える柱でな、殺害するわけにはいかないんだ。だが、膨大な魔力と強力な魔法を使うので、手を焼いていたんだよ。そこで、話し合いを行い、全面的な生活の支援をすることで、ここに
軟禁や監禁を想像していたのだが、違うのだな。
テオドラは、仲間を殺されながら放浪していたのに、全面的な生活の支援か……。
「ちなみに、その『世界を支える柱』を殺害するとどうなるのですか?」
「……本当に何も知らないのだな。田舎から出て来たのか? まあ良い。昔、4人の勇者がいた。火風水土の勇者だ。その四人が、この世界で理不尽に殺されたらしい。詳しく情報が残っているのは火の勇者だけだがな。その後、魔法の使えない者が生まれ始めたと言えば、分かるだろう?」
「勇者を殺害してしまい、魔法の使えない者が増え始めたということですか? そして、勇者が『世界を支える柱』だったと?」
「ああ、そうだ。その後、数人は『世界を支える柱』が生れたが、今は魔人とエルフの二人しかおらん。この二人がいなくなったらこの世界から魔法が消えてなくなるだろうな」
この世界の人族は何をしているのだろうか……。空間魔法で優位に立つのは良いが、他種族を排除しても結局は自分の首を絞めているだけじゃないのか。
それで、『氷の王女』だけを保護しているとか。意味が分からない。
それと重要な話が聞けた。『世界を支える柱』は新しく生まれないのか……。何かしらの条件があるのだろうな。
お礼を言って、その男性と別れた。
そのまま進み、氷の王女がいるという建物に近づいた。
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