第30話 新魔法のお披露目1
始めの街に戻って来た。
街の外には、テントが並んでいる。多分、街で収容しきれないほどの人が押し寄せているのだろう。
自分の予想とはかなり異なる状況だが、まあ良いだろう。
その多数のテントが並ぶ平地に向かった。
「これは……、酷いな」
怪我人だらけであった。もはや戦場である。
まあ、ダンジョン地下一層で殺し合いをしているのを見ているのだ。予想していないといけなかったな。
腐臭と死臭が漂うその場所を見て回った。
「どいて! どいて!」
大量の荷物を抱えた女性が、走ってくるのを見て、自分は道を空けた。自分の知識では、シスターかナース当たりだと思うが、多分、この街の人なのだろう。制服どころか、エプロンさえしていないので、そう判断した。
その女性は、洗いたての洗濯物が入った籠を持っていた。
その女性が走っていく先には、樹から紐が伸びている。
「あそこで乾かすのか……」
洗濯物が、風でなびいていた。
特に興味は無かったが、洗濯物が干されている場所に向うことにした。
「何か御用ですか?」
自分の視線に気が付いた女性が、不機嫌そうに話しかけて来た。視線は自分には向けて来ず、手をひたすら動かしている。
「あ、すいません。邪魔をする気は無かったのですが……。この街の様子が知りたかっただけなので見回っているだけです」
女性が睨んで来た。
「……あなたも魔法を使えるようですね。見るだけではなくて手伝おうとは思いませんか? 毎日何人も死者が出ている状況を見ても見学だけですか? こんなにも……」
女性は、洗濯物を固く握りしめていた。
さて、なんて答えようか?
そもそも、自分達で殺し合いをし始めたのである。自業自得……、そうとしか感じない。原因を作ったのは自分ではあるが、少し考えれば、こんな状況にはならなかったはずである。
優秀な指導者とかいれば良かったのだが。
まあ、良いか。
濡れた洗濯物に近づいた。
水魔法:水流操作
洗濯物に付いた水分を手に集めた。洗濯物が一瞬で乾く。まあ、〈乾燥〉や〈減圧〉でも良いのだが、繊維を痛めそうだったので、水分を集めることにしたのだ。
そんな自分を女性が驚いて見て来た。
「少し手伝いますね」
笑顔を心がける。
こうして、自分が洗濯物を乾かし、女性が畳む作業となった。
◇
「ありがとうございました。大分、時間の節約になりました」
今は、二人でお茶を飲んでいる。
お礼を言いながら女性が頭を下げて来た。この女性も魔法が使えないのだな。こうゆう人に属性の指輪を使って貰いたいものだ。
「自分はソラと言います。お名前をお聞きしても良いですか?」
「……ナンパではないのですよね。マリナと言います」
マリナは、ため息を付きながら名前を教えてくれた。なんというか、ツンとした態度で視線を自分から外し、少し恥ずかしそうにお茶を飲んでいる。
ナンパして欲しかったのだろうか? 魔法を使って優しく接したが、それだけで良い関係が築けたとは思えない。
まあ良いや、マリナに決めた。マリナにメッセンジャーになって貰おう。自分は、結構行当りばったりの行動が増えて来ているかもしれないな。少し苦笑いが出た。
空いているコップにお茶を注ぎ、魔法を掛ける。
回復魔法:回復液生成
自分は、コップの中の液体をポーションに変えた。
ぶっちゃけ、魔法によるポーションの作成である。この世界の四大属性魔法は、火を生み出したり、水を操作するだけだった。回復やバフ、デバフという概念がない。まあ、数百年も経てば誰かが思いつくだろう。
そして、『便利すぎる』空間魔法が主流となり、魔法の発展が止まってしまった。こうなると、文化や技術の発展は望めず衰退していくのが目に見えている。まあ、王制を強いているので革命が起きそうだな。
余計な思考が過ぎったが、本題に戻ろう。
マリナにコップを差し出す。
「お疲れのようですね。飲んでみてください」
マリナが不思議そうにコップを覗き込んだ。そして、色と匂いで分かったようだ。
「え? まさか、ポーション?」
「当たりです。お茶をポーションに変えてみました」
マリナは、かなり混乱している。魔法が使えないと言ってもこの世界の常識は持っていそうだ。ポーションは薬草から作られるのが、この世界の常識である。それを魔法で作り出すことは非常識なのだ。
マリナは、少し躊躇ったが、最終的に飲んでくれた。
◇
今自分は、井戸のそばに座っている。
井戸から引き上げられ、桶に入っている井戸水を直接ポーションに変えているのだ。マリナとその同僚が、ポーションを小分けにして運んで行く。
自分は空になった桶を、再度井戸に投げ込んだ。
「結構しんどいなこれ……」
井戸の桶を引き上げながら、少し本音が出た。
数日はここで回復魔法の実演をしよう。重体患者がいれば、直接回復魔法を使用しても良いかもしれない。
水魔法を使える人が、自分の魔法を見れば覚えようとするはずだ。そして、マリナ達が証言してくれるだろう。
目立つのは、得意ではないが、マリナやその同僚が笑顔になっているので、まあ良しとしよう。
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