第28話 戻ってきた奴隷達

 セシリアが帰ってきた。夜中に姿を見せた。

 だが、ダンジョン地下一階を見上げて、困っている。

 それよりも呼び方を変えようかな? 『地下一階を見上げる』って何かおかしい。


 とりあえず、風魔法をセシリアに纏わせて浮上させる。

 セシリアは驚いていたが、暴れることは無かった。


「おかえり、セシリア」


「ただいま。主様」


 地下一階の森で、セシリアに食事を出す。とても勢い良く食べている。

 冒険者が残していった物資の中に硬貨のような物があった。今度は渡してから依頼を出そう。


 セシリアが食べ終わったので、報告を聞く。


「エルフ族の事は何か分かりました?」


「……、生き残りはダンジョンに潜ったらしいです。主様と一緒ですね。ダンジョンマスターと手を組んで、住まわせて貰っているみたいです」


 ふむ。神様はエルフ族を真似て、自分にハルカを紹介したのか。


「街にいるエルフは、全員隷属されているのだよね?」


「そうですが、何かさせるのですか? 反乱など起こさせても即時鎮圧されるのが落ちですよ?」


 反乱か。無意味な戦闘は回避したいな。


「セシリアは、ダンジョンに潜ってエルフ族の長に会いに行く事は出来ますか?」


「無理に決まっているじゃないですか! 騎士ですら踏破出来ないレベルのダンジョンですよ?」


 う~ん。そうなると、自分が赴かねばならないか。

 地図を出して、エルフ族が立て籠もるダンジョンの位置を教えて貰う。

 ここから南東、国全体からすれば南に位置する位置を、セシリアが指差した。

 思案する。

 まず、虚空のダンジョンは『勇者』が来なければ、存続は出来るはずである。

 属性の指輪の事もある。ハルカが殺害される事は無いだろう。

 こうなると、自分が遠征する事は問題が無いはずである。


「少し考えたいので、しばらく羽根を伸ばしてください。人族の国を回って何か有益な情報が手に入ったら教えに来てください」


 ハルカに頼んで、硬貨の入った袋を渡す。

 袋を開けて、中を確認する、セシリア。


「え……。こんなに?」


 セシリアは驚いている。


「足りなくなったら戻ってきてください。豪遊しても良いですよ」


 少しからかってみる。

 セシリアの表情に強張りが出来た。


「奴隷契約されている者が、豪遊ですか? 嫌味にも程があります」


「ああ、ごめん。何か美味しいものでも食べてきてください」


 こうしてセシリアは、不機嫌なままダンジョンを後にした。





 ルイスが帰ってきた。今度は昼間だ。

 風魔法を使用し浮上させて、ダンジョン地下一階に引き上げる。

 冒険者が見ているので、虚空のダンジョンとルイスの繋がりがバレてしまった。しばらくは、ダンジョンから出さないようにするか、変装させる必要があるな。

 今思い返すと、セシリアは顔を隠しており、夜中に来たので見られなかったと思う。

 この後のことを考えると、ルイスをダンジョンに招いたのは少し迂闊だったかもしれない。セシリアの用心深さに感心する。


 ダンジョン地下一層で、ルイスの話を聞くことにした。

 ルイスは、前の主人の資金を自由に出し入れする権限を貰っていたのだそうだ。なので、衣食住には困らなかったとのこと。


「四大属性の指輪を得た人達はどうしていましたか?」


「まず、ほとんどの人が属性魔法を発現させてから、空間魔法の習得を行っていました。ただし、魔力の保有量が少ないので、【収納】と【転送】までみたいです。それが分かると、属性魔法の練習に励んでいました」


 ふむ。魔力量を抑えたのは正解だったな。


「獣人の王になれるような人材はいましたか?」


「人望のある人は、何処にでもいます。ですが、隷属魔法を受けているので、独立しようとする人は、まずいないと思います」


「隷属魔法が解かれれば、反乱が起きると思って良いですか?」


「無理ですね。各都市には、騎士がいます。本当に一騎当千の強さですので、民衆の反乱が起きたら瞬時に鎮圧されることが予想されます」


 騎士と、王族貴族を何とかする必要があるな。

 それと、王制の廃止かな。国王を討ち取るのが良いかもしれない。

 その後の政治は、その後の人達に任せる。



「テオドラのお姉さんについては、何か分かりましたか?」


「北の牢獄に入っているそうです。一年近く閉じ込められていますが、殺される事はありません」


「何で言い切れるのですか?」


「精霊の加護が高すぎるのです。殺害すると世界の魔力に影響を及ぼします。昔、精霊の加護の高い人が殺害されて、天変地異が数年起きたそうです。そうですね、『世界を支える柱』とか言われています」


「その人達を見分ける方法は、ありますか?」


「魔力の持っているならば、見れば分かるそうです。一目で分かるとか聞きました」


 ふむ……。思案する。多分、『世界を支える柱』は数人はいると思う。テオドラがその一人になっているはずだ。

 この『世界を支える柱』を味方にするのが、現状を打破する鍵になるだろう。


「それと、二つ名ですけど、『氷の女王』と呼ばれています」


「氷……? 属性は、どうなるんですか?」


「四大属性を全て操れる人は、稀に他世界から新しい精霊を連れて来ると聞きました。僕は、魔力が無いのでその辺は良くわからないのですが」


「もしかして、エルフ族にもいたりします?」


「良くお分かりになりますね。『雷帝』がいます。この世界で唯一雷属性の精霊と契約を持っています」


 四大属性だけでは無かったのか。あの神様を恨む。いや、説教したいな。

 その後、色々と話しを聞いたが、有益な情報は得られなかった。

 獣人の開放は、かなり考えないといけないな。人族を絶滅寸前まで追い詰めるか、断絶するか。いや、誰も考えない方法を取るのが自分の役目か。それで異世界転移を強要されたのだろうから。

 MMORPGでは、運営が考えもしなかった方法を考案するのが得意だった。穴を突くと言った方が良いだろう。

 そろそろ、定空珠意外の方法も試していこう。情報は十分に揃っている。


 ルイスにも、情報収集を依頼してダンジョンを後にして貰った。鳥型の魔物に乗せて、少し離れた所に送った。

 有益な情報を持ち帰るのを期待しよう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る