第27話 ダンジョン拡張2

「大分数が減ったかな?」


「良いの? 足の遅い魔物ばかりだったけど」


「うん。脅しだからね。十分だよ」


 ハルカが首を傾げる。


「それよりも、ダンジョンを改造しましょうか」


 ハルカが嬉しそうに自分を見た。


「どんな風にするの?」


「ダンジョン地下一層を浮上させてください」


「はえ?」


 ハルカが間抜けな返事をした。


 ダンジョン地下一層が浮かび上がった。その風景は、空飛ぶ森。例えるならラピュタかな。まあ、城ではないか。

 百メートルほど浮上させて、そこで停止させる。だが、やはり不安定だった。風で動いてしまう。

 少し考えて、地下一層の岩盤を変形させて、一部地面まで伸ばすことにした。ダンジョンは山を逆さにしたような形となった。とりあえずは、風で流されることはないが、まだ不安定である。

 不安定なこの状態を維持し続けると、ダンジョンポイントを消費し続けることになる。

 そこでだ。


「エアロバインド!」


 ダンジョンの下の空気を固める。一時的に自分の魔力が空になったが、自分が解除しない限りはこのダンジョンは浮かび続けることになる。維持費は無し。

 まあ、裏技と言ったところだ。キャラメイクの時に考えていたのだけどね。実際に使うことになるとは思っていなかったのが本音だ。

 これで、しばらくは『飛翔』を持った人以外は来れないだろう。風魔法等で飛んで来る人は、歓迎して指輪を渡して帰って貰う。

 今ダンジョン内いる人達は、【転移】で帰って貰うとしよう。

 帰れない人は、考えて貰おう。自分は知らない。ここはダンジョンなのだ。

 自己責任である。


 問題は、ダンジョンの下を支えている、『エアロバインド』を風魔法で壊されることかな。

 ここはハルカに防衛をお願いしよう。大量のトラップを配置して監視して貰う。飛翔系の魔物も放って貰った。鷲などの鳥系と、ガーゴイルなどの鉱物系だ。



 さて、騎士対策として、六層の改造を行うか。


 六層は、酸性雨が降り注ぐ、不毛の大地にした。地面は、殆どを沼地とした。沼は膝まで埋まるので歩くことは困難である。

 『飛ぶ』以外の選択肢を奪ってみたのだ。

 自分が優位に立ち回れるフィールドになるはずだ。水風土魔法が有効に働き、空間魔法を常に使用し続けなければならないフィールド。天井があるので空間魔法での移動も容易ではない。


 ここで、ハルカが聞いてきた。


「魔物の配置は行わないの?」


 魔物の配置か……。 【空間切断】を無効化出来る魔物……。ゴーストとか実体を持たない魔物が配置出来れば、属性魔法を使用する様になるだろう。


「ゴーストって分かります? もしくは、実体を持たない魔物とか、切られると分裂し続ける魔物がいれば、教えてください」


「ゴースト類ね。十種くらいいるわ。それと分裂する魔物だけど、スライム類のプラナリアとか、クラゲ類がいるわね」


「陸上で生きられるクラゲの魔物はいますか?」


「ランドクラゲがいるわね。召喚時にスキルの付与も出来るわよ?」


 ふむ。ダンジョンマスターは、やはり能力だけ見れば優秀だな。


「クラゲに触れると中級の爆発と、外観の透明化か同化。それと、斬撃耐性と分裂特性とか付与出来ます?」


「それなら千匹は召喚出来るわね。それだけで良い?」


 何となくだが、ハルカとは相性が良さそうだと思ってしまった。

 強大な力を持つハルカと、奇想天外なアイディアを出す自分。そして、ハルカは自分を信頼してくれている。


「どうかしたの?」


「いや、何でもないよ」





 まず、ランドクラゲを、六層に千匹放つことにした。

 ゴースト類は、十種を十匹ずつ放つ。上級の魔物も含まれている為、対応には苦労するだろう。【空間切断】を無効化出来る魔物が含まれていれば、その種類を増やすつもりでいる。冒険者が六層に来るまで効果の確認が出来ないが、まあ、のんびり待とう。

 前世は効率厨だったが、運営側からすれば迷惑極まりないことが分かった。


 それと、大量のトラップを設置した。

 これで、定空珠を用いた迎撃以外のフィールドが出来上がったと思う。


 数日したら、騎士がまた来た。

 今回は六層で迎撃を行う。動作確認だ。


 酸性雨と毒の空気で、騎士は辛そうだ。

 まず、ゴーストの仕掛けてみる。騎士は【空間切断】でゴーストを迎撃するが、ゴーストにはダメージが見て取れない。

 だが、最終的には、空間を固定してゴーストを捕縛してしまった。空間魔法には、【停止】もあるのか。自分の『バインド』と近いかもしれない。ちょっと残念である。

 良いアイディアだと思ったが、甘かったか。


 自分は六層の出口で待っていた。

 でも、視認出来る距離まで近づくことを許す気は無い。


「ウォータバインド!」


 酸性雨が、空間に固定された。濡れている騎士は、それこそ指一本動かせないでいた。


 魔物を襲わせて、トラップも起動させる。

 騎士は、【空間断絶】で防御して来たが、数時間もすれば魔力が底を突いて襲われ始めた。沼地に落ちた時点で終わりだろう。


「水魔法を使えば、簡単に抜け出せるのにな」


 拡張現実〈AR〉を起動して、騎士の様子を見ていた感想だった。


『ソラの感覚は少しおかしいよ? 答えを知っているから言えるのだわ』


 ハルカからツッコミが来た。


『空間魔法のみに囚われているから発想が乏しいのですよ。色々と試せば、抜け道があるようにしたのですけどね。トライアンドエラーを繰り返さないと、現状打破を行えない事もあります』


 そんな事を話していると、騎士がダンジョンに吸収された。

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