第25話 今後の方針

 騎士を全員墜落させた。無限の空間に囚われた彼等はもう二度とこの世界に戻って来る事はないだろう。


 ダンジョンルームに【転移】して貰い、ダンジョン全体を確認する。すると、数点青い光があるのが分かった。

 騎士による虐殺から、逃れた人達だ。まあ、負傷はしているが。


 生きてダンジョンを出れそうなのは、三人だけか。

 ハルカに頼んで、宝箱をその人達の元に【転送】して貰う。

 助けたい気持ちもあるが、助けたことが後々どの様に捉えられるか分からない。

 自力でダンジョンから脱出出来ない冒険者は諦めるしかなかった。


 助ける義理もないが、なんか歯がゆい。

 そして気分が悪い。


「ソラ。顔が怖いよ」


「ああ、ごめん。自分も人を殺しているのだけどね。それでも虐殺は、見ていて気分が悪くなりました」


「ポーションは送らないの?」


「……今回はダメですね。『弱者を助けるダンジョン』と思われると、取り返しがつきません」


「そうなんだ……」


 数時間後、ダンジョン内に冒険者はいなくなった。



 ここで考えてしまう。激情に駆られて騎士を討ち取ってしまったのは、間違いだったかもしれない。

 この世界の上位者を倒してしまったのだ。これからこのダンジョンは、凶悪と判断されるだろう。


 指輪を渡して、何もしないのが正解だったかもしれない。

 これで、この世界の人々がどう動くのかが、予想出来なくなった。

 恐れて来なくなるか、大挙して押し寄せるのか……。


 考えていると、テオドラがダンジョンルームに入って来た。


「のう、ソラ。ダンジョン七層が騒がしかったが何かあったのか?」


「ちょっと強い人達が来ましてね。ダンジョン七層を閉じようとされてしまいました」


「ハルカ。大丈夫なのかえ?」


「うん。修復にダンジョンポイントを多少使うことになるけど、元に戻せるよ」


「ごめんね、ハルカ。空間魔法がダンジョンを壊せるとは思っていなかったので」


「大丈夫だよ」


 ハルカが笑顔で答えてくれた。


「のう、妾も何かしたいのじゃが、仕事はないかえ?」


 考えてしまう。テオドロは、今はこの世界の柱になっているはずだ。戦闘に赴かせるわけにはいかない。

 でも、何かしらの仕事を与えてあげた方が良いのもある。


「精霊は、何か言っていますか?」


「以前より喜んでおる。先程の戦闘後など特に歓喜に満ちておった」


 自分のバインドも、精霊を介さずに魔力を直接変換しているのだが、それでも喜んでいるのか。

 空間魔法の使い手が本当に嫌いなのかもしれないな。

 いや、空を飛ぶために火魔法と風魔法を使わせたのが大きいか。そうなると、空間魔法の使い手を全滅させるのではなく、属性魔法を使わせる……か。

 難易度高いな。


「精霊に、人族以外の場所を聞くことは出来ますか? 獣人や魔人、エルフでもかまいません」


「うん? ……出来なくはないそうじゃが、どうやってそこまで行くのじゃ?」


 それもそうか。【転移】や【瞬間移動】など使ったら、精霊の機嫌を損ねてしまう。

 ダンジョン地下一層に来て貰うのが現実的であろう。


 考えをまとめる。



「テオドラは、まず雨を降らせる技術を確立してください。最終的には、酸性雨や毒の雨をダンジョン地下一層で発現出来ると、今後楽になります。また、水を生物型にして操れると、【空間切断】対策になるかもしれません」


「わかったのじゃ!」


 ウォータージュエットとかも良いかも知れないが、せっかくの魔法なのである。空間の制圧や、前世ではありえなかった動きを作り出して貰おう。

 自分の依頼を聞いて満面の笑みの、テオドラ。

 それを見て、ハルカの表情が曇る。


「ハルカは、ダンジョン七層の復旧をお願いします。それと、ダンジョン地下一層に人族以外が来た場合は、強制的にダンジョン十層に【転移】させてください。話し合いの結果、保護出来るのであれば、このダンジョンに住んで貰おうと思います」


「……分かったわ。でも、奴隷契約はどうするの?」


「多分、契約者と共に来る奴隷がほとんどだと思うので、契約者を消します。ダメだった場合は、宝箱を持たせて帰って貰います」


「そうなると、人族以外が来ると属性の指輪を渡す感じになるの?」


「単純にはそうとは言えませんが、比率は多くなりますね」


「ソラの話は、何時も難しくて良く分からないわ」


「トライアンドエラーの繰り返しですからね。今の状況も予想は出来ませんでした。その都度、修正しているので一貫性は無いかもしれません」


 苦笑いが出た。


「まあ、良いではないか。精霊は結構ご機嫌じゃし」



 ハルカは納得がいかないらしく。プイっと顔を背けた。

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