第23話 魔法の指輪
国中に噂が広まった。
辺境にあるダンジョンから魔力の持たない者でも、誰でも魔法が使える指輪が出たと。
魔力の持たない者は、希望を持った。
冒険者以下の魔法使いは、一攫千金を夢見た。
その国の住民の注目が一つのダンジョンに集まった。
こうして、大勢の人の移動が始まった。
◇
◆虚空のダンジョンに近い街の領主視点
街は、人で溢れていた。もう泊まる部屋も無いので、町の外にテントを並べてもまだ足らない。
急いで、簡易的な小屋を作るように命令を出したが、木材がないだの人手がいないだの言い訳ばかりで遅々として進まない。
これだから田舎者は困る。領主の命令を速やかに実行してこそ街が発展するのだろうに。
回り回って自分達の利益になるという事が理解出来ていない。
物資不足も深刻化し始めた。だが、商人共の嗅覚は鋭い。大量の物資をこの街に運び込んで高値で売っているのだ。
税収が増えるので放置しているが、元々住んでいた住人達はとても嫌がっている。
冒険者を使い不満を無理やり抑え込んでいるが、何時まで持つのやら。
それと、四大属性の指輪だ。『魔法が使える』という欲求は、この国を大きく変えるかも知れない。
初めは、全て買い取ろうとしたのだが、そうすると数日で誰も指輪を持ってこなくなった。
そのまま他の街で売りに出すつもりであろう。
街一番のベテラン冒険者を失った事が悔やまれる。
思案の末、競売所に出品する事を許可した。自動的に私の元へは誰も届けなくなる。
ただし、競り落とされた額の10%は私が貰う。
それでも、初日に数十個の指輪が出品された。そして私は、大金を手に入れられた。これで、中央への進出準備を初められる。
笑いが止まらない。
その前に領主に逆らう冒険者共に、今度は二度と逆らえない法を作ってやろう。
そんな事を考えていると、思惑通り騎士が来た。
私の出世の足がかりとなる人達だ。
一つの屋敷を空けておいたので、準備は万端だ。
「よくぞおいで下さいました」
一礼して向かい入れる。
「挨拶は良い。指輪とやらを見せろ」
黙って、四大属性の指輪を渡す。四属性全てが揃っている。ここまでは完璧だ。
騎士が、指輪をはめて確認をする。
頷いている。思わずニヤける。
「今もこの指輪は産出されているのか?」
「は! 競売所で取引されています」
「何だと? 王命は届いていないのか!?」
「は? 王命でありますか? 何も来ておりませぬ」
騎士が何か話している。
次の日に領主を解任されて、平民に落とされた。
◇
◆騎士視点
まったく面倒な事をしてくれた。
もう全ての指輪の管理など出来ないであろう。とにかく、産出を止める事と回収を急がなければならない。
五人ずつに分かれて、ダンジョン班と回収班に別れた。
どちらも嫌な仕事だ。ダンジョン内にいる者は、従わない場合は殺さねばならない。回収も従うとはとても思えないので、競売所で取引されている倍以上の値段を提示する必要がある。
まあ、国庫からすればはした金だが。
まずは、競売所で出品されている全ての指輪を買い取った。
全てその場で確認すると、中には偽物まであった。その出品者は探し出して厳罰処分とした。まあ、人族に奴隷落ちは無いが、生涯賃金くらいの罰金を課した。
良い見せしめになったのだろう。その後、偽物は出回らなくなった。
次は、平民に出回った指輪の回収だ。競売所の三倍の値段で買い取ると言うと、結構な数が集まった。平民からすれば、一生遊んで暮らせる値段である。だが、出回っている総数が分からないので、全ての回収は無理であろう。
中には、五倍の値段を提示しても渡さない者もいた。私は諦めて、暗殺し回収するという最悪な方法を取らざる負えなかった。
まったく、王命を理解していない平民が多すぎる。
私は、三日ほど指輪の回収を行い、集まった指輪を王城に届けるため一度戻る。
残り四人の内、一人はこの街に残って貰った。他の三人は、他の街に行き指輪の所在確認と回収を依頼した。
この指輪の複製が可能であれば、世界が変わるかもしれない。
そんな期待を持ちつつ、私は王城にむかって飛翔を始めた。
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