第20話 エルフと獣人

 今は、ダンジョン十層で、エルフと獣人の三人で座って向かい合っている。


「自分はソラと言います。元日本人です。名前を教えて貰えますか?」


 エルフの女性が答える。


「私は、セシリアです」


 今度は、獣人の青年だ。


「僕は、ルイスです」


「二人共、魔力は持っていますか?」


「「持っていないです」」


 ふむ。また、メッセンジャーになって貰うか。

 どの属性魔法が欲しいか聞くと、エルフは風魔法を、獣人は土魔法を選んだ。

 ハルカが作った、劣化版の属性の指輪を渡す。


 指輪をはめると、二人共驚いていた。魔力を持っていないのに感じることは出来るのであろう。


「それを街に持って行って、街の有力者か、権力者に見せてください。いえ、渡してください」


「今のままでは戻れないのですが」


 ん? 何でだろう?

 詳しく聞くと、人族以外が人族の領域に入ると隷属魔法が無い場合は、即座に拘束されるのだそうだ。

 街に入っただけで、奴隷になるのか。

 クズな主人に買われると、死ぬまでこき使われるとのこと。特に、魔力の無い場合は、死んだほうがマシと思える環境に置かれるのだそうだ。

 先程、自分が倒した冒険者は、かなり待遇の良い人だったらしい。才能を見極めて、適材適所の仕事を与えてくれたのだそうだ。

 街の顔役でもあったらしい。

 そうなると、自分が二人の主人になる必要がある。


『ハルカ。隷属魔法は使えますか?』


『使えるけど、あまり好きではないわ』


『依頼が終わったら、開放します。協力してください』


『……分かったわ』


 隷属魔法は、四大属性を付与した水に主人となる者の血を混ぜて、体に入れ墨の様な模様を描くのだそうだ。

 ハルカが手伝ってくれて、奴隷魔法は問題なく契約出来た。しかし、初の複合魔法が奴隷魔法か。応用を考えたいが、これでは応用は無理だな。

 オリジナル魔法を考えて行こう。


 自分の事は口外しても良いので特に注意はしなかった。ただし、属性の指輪はダンジョンで見つけた事にさせた。

 二人には属性の指輪を持たせて、ダンジョン一層の入り口に送る。ここまでは、思い通りに進んでいる。


 ちなみにセシリアは、エルフ族の生き残りの場所は知らないとのこと。セシリアは、幼少期に捉えられて、人族の街で生きてきたのだとか。

 獣人のルイスは、生まれも育ちも人族の街らしい。

 有力な情報は、得られなかった。

 彼らの元主人を討ち取ったのは失敗だったかもしれない。



 その後、ルイスが土魔法で道を作り始めた。テオドラが作った湖の底から土を盛り上げているのだ。

 他の冒険者もそれに習い、協力してテオドラが作った湖を渡りきった。

 『虚空のダンジョン』は、それこそ誰でも入れるのが問題だったと考えた。大きな湖という障害があれば、低レベル者は入ってこれないと考えたのだ。

 あの道は、明日壊しておこう。


 ルイスも、『魔法が使えれば』と色々と想像していたのだろうな。即座に有効な魔法を発現するとか優秀すぎる。イメージトレーニングを行なっていたと言ったところだろうか。

 戻ってくる頃には、結構な使い手になっていそうだ。あ、指輪を献上するように言ってしまった。まあ、またあげようか。

 それと、セシリアは、魔法を使わなかった。慎重だな。指輪を渡す前に、魔法を使って楽しんでおけば良いものを。





「ねえ。説明してくれない?」


 ハルカが、怪訝そうな顔で質問して来た。


「そのままですよ。あの指輪の存在を広めて貰いたいと思います」


「それならば、始めから冒険者に渡してあげれば良かったんじゃない?」


「まず、ダンジョンポイントが無かったでしょう? 空間魔法の使い手をダンジョンポイントに変えて、属性の指輪を増やして行く計画です」


「……それはそうだけど」


 まあ、たしかに回りくどい。だけど、最悪を想定すると時間を掛ける意味が出てくる。異世界転移して数日で、この世界最強の『勇者』が来た場合は、確実に負けるだろう。

 今は、ゆっくりとだが、準備をしたい時期である。

 ダンジョンの強化や魔人族や獣人族の保護。

 定空珠も見せた相手を生かして帰したことも大きい。対策されることも考えないと、この先負ける事もあるだろう。

 自分だけの魔法である〈バインド〉もバリエーションを増やしたい。

 考えなければならない事は多いな。


 属性の指輪……、自分の前世の記憶では、『聖遺物』に近い物になるだろう。

 それを知った人類は、虚空のダンジョンに殺到すると考えている。


 餌をまき、おびき寄せて、罠で仕留める。

 これからしばらくは、この繰り返しで忙しくなるはずだ。


 その間に、精霊のご機嫌取りの最終的な方法を見つけて行こう。

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