第18話 冒険者の一団3

 槍を持つ冒険者は、一人だけだったのですぐに分かった。

 ただし、兜をかぶっているので、顔が分からない。


 場所はダンジョン二層だ。毒のフロアであり、毒の霧と毒の池がある。解毒薬を飲み続ければ、何の問題もないフロアだ。

 冒険者が視認出来る位置に【転移】して貰うと、いきなり斬撃が飛んで来た。

 いや、槍による突きなので、〈刺撃〉かな? そんな言葉無い?


 慌てて躱す。距離のある場所に【転移】して貰ったので躱せた。マジで危ない。

 後ろの壁が壊れた。本来であれば、ダンジョンの破壊など出来ないはずであるが、何だあの威力は?


 再度、刺撃が飛んで来る。自分は足元の毒の池を力強く踏み抜いた。


 ──バシャン


 水しぶきが上がる。


「ウォータバインド!」


 水を空中で止める。冒険者の刺撃は、水しぶきに当たると消えてしまった。

 アースバインドで確認したが、自分のバインドは空間魔法よりも上位に位置する。自分のバインドに触れた空間魔法はその効力を失うのだ。まあ、そうイメージしたからだけど。

 効果はショボいが、そこは使いようだ。


 定空珠を起動させる。

 おや? 異変に気がついたようだ。多分だが、常に何かの空間魔法を使用しているのだろう。

 今まで出会った冒険者とは、レベルが違う。


 すぐに落ち着き、再度、槍の先端を向けて来た。


「何者だ!」


 どうしようか。何と答えようか。いや、答える必要も無いのだが。

 少し思案した。


「元日本人です」


 冒険者は驚いていた。


「……何か目的があるのだな。そうか、次は我々が負ける番か」


 何か知っているのかな? 話し合いたいけど、この人は討ち取らなければならない。

 話は、エルフと獣人に聞くとしよう。

 ダメだったら、近くの街にまた行くかな。


 手を向けて魔法を発動する。


 戦闘が始まった。



 風魔法:刺弾狂乱二十射


 中距離魔法で迎撃する。魔法の弾丸は、直進させずに複雑に折れ曲がる軌道に調整した。

 近代兵器でも再現出来ない軌道である。それを一斉に二十発撃つのである。命中率は気にしない。

 明後日の方向に飛んで行く弾丸もあるが、冒険者の注意を引くのに役に立っている。

 これで面制圧出来るはずであった。だが、当たらない。

 冒険者は、槍に風魔法を纏わせて迎撃した。槍を風車のように回転させて相殺している。

 この魔法は、数は多いが、一発の威力が低いのが欠点だな。もう少し考えよう。


 冒険者は、防御の合間を縫って、反撃してくる。自分も常に移動しながら、連射を行う。

 風魔法の刺撃は、ダンジョンを壊さなかった。飛ぶ斬撃に比べれば、たしかに威力が弱い。だが、当たれば手足が吹き飛ぶ威力である。空間魔法の攻撃はオーバーキルだと思うんだけどな。一対多ならば、有効かもしれないが。


 それにしても、この冒険者は、四大属性魔法を使えるのか。面倒である。

 距離を取り、射程の外に出る。


「アースバインド!」


 冒険者の動きが止まる。そして、困惑している。

 自分は即座に冒険者の背後に回る。


 だが、予想外の事が起きた。

 冒険者が、土魔法を使用して、足元の地面を壊したのだ。


 そう、自分が選んだ『四つのバインド』の魔法は、同じ属性魔法で相殺出来るのだ。

 空間魔法より上位であり、四大属性魔法の下位もしくは同列に当たる。それが、『バインド』の正体だ。

 瞬時に対応されて結構ショックを受けた。この人は、魔法に関する年季が違う。

 多分、感覚だけで正解を導き出したのだろう。

 ちなみに、定空珠にも抜け道があったりする。今はその時が来ないことを祈るだけだが。



 ──ドドドドドド

 ──ビュン



 色々な雑念が出てきたが、戦闘は継続中だ。

 また、中距離で打ち合いが始まった。

 自分の方が、弾数は多いが、冒険者の攻撃は、一撃でも受ければ死にかねない威力だ。

 ただし、速度はそれほどでも無いので、距離があれば当たることは無い。

 足元の池以外、遮蔽物の無い空間で打ち合いを行う。


 冒険者の足を撃ち抜いた。移動しながらの射撃の為、命中率は低いが、それこそ数打てば当たった。

 射撃戦は、必中か弾数勝負が妥当だと思う。高い威力は、相手の機動力次第だろう。この冒険者は、普段は風魔法を使用していないのだろうな。それで、空間魔法に似た攻撃を再現してきたのだと思う。

 冒険者がよろけて、池に落ちる。


 自分も池に入る。冒険者と繋がっている池に。


「ウォータバインド!」


 冒険者が動かなくなった。池を伝って自分の魔法が届いたのだ。

 冒険者の体が消えて、ダンジョンに吸収された。荷物も消えたので、ハルカが回収してくれたのだろう。


『ハルカ。一度ダンジョンルームに戻してください』


『了解!』


 その場から、【転移】した。

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