第14話 魔王の娘

 倒木に座っていたので、立ち上がって出迎える。


「突然、申し訳ないです。いや、遅れてしまったことを謝った方が良いかもしれませんね。転移者のソラと言います。この近くのダンジョンに住んでいます」


 頭を下げる。

 一人の魔人族の女性が前に出てきた。


「妾が、この魔人族を纏め上げている。名は、テオドラじゃ。して、何用じゃ?」


 外見を観察する。銀髪、赤眼、白い肌。頭からはねじ曲がった角が一本生えていた。吸血鬼かなとも思ったが、ちょっと違う気がする。まあ、種族はどうでも良いか。


「とりあえず座って話しませんか? それと必要な物資があれば言ってください。ご用意します」


 魔人達は、驚いていた。





 ハルカに頼んで、大量の食料を【転送】して貰う。

 皆、一心不乱に食べていた。泣きながら食べている魔人もいる。ちなみに肉が主食の様だ。


 テオドラが食べ終わるのを待っている間、魔人達の観察を行う。正直、戦える人は少なそうだな。

 いや、戦える人は死んで行ったのかもしれない。この人達は残された人達なのだろう。


「して、妾に何用じゃ?」


 テオドラの食事が終わったらしい。


「先程の斥候みたいな魔人さんには話したのですが、精霊達が怒っているみたいです。協力して欲しいことがあって会いに来ました」


 とりあえず、核心から入る。聞いてもらえない場合は、残念だがここで分かれる。

 だが、テオドラは驚いていた。


「そなたは、精霊と会話が出来るのか?」


「出来ませんよ? もしかして出来る人とかいるのですか?」


「妾の姉上が、精霊と会話出来ての、色々と指示を受けておった」


 ふむ。その人に興味があるな。


「あなたは、会話出来ないのですか?」


 落ち込む、テオドラ。


「妾は、魔力が無い。この世界では無力な人間なのじゃ」


 ふむ? 長じゃないの?





 少し話を聞いたのだが、この世界のことが少しだけ知れた。

 まず、魔力の有無だ。血統では無いのだそうだ。魔力を持たない両親から魔力を持つ子供が生まれることもあるのだとか。

 また、王族貴族が存在する世界だが、魔力を持たない王族もいるのだそうだ。

 魔法だけが価値観を持つ世界では無かった。

 今話している魔人のお姉さんは、四大属性全ての魔法が使えたとのこと。

 もう少し詳しく聞くと、何でも全世界の半数が魔力を持つらしい。言ってみれば確率論なのだ。

 そして、魔力の有無は、生まれで決まると。


 寝ている幼児を愛おしそうに撫でている、テオドラ。

 それと、周りの魔人達の接し方から、魔力無しの王族でも慕われていることが分かる。


 さて、どうしようか。

 まあ、やることは決まっている。この人に決めた。


「仮にの話をします。四大属性魔法のうち一つが使えたとすると何を選びますか?」


 驚く、テオドラ。

 少し、間を置いて回答が得られた。


「水魔法じゃな。水魔法が使えたらこの旅がどんなに楽になったことか」


 色々と考えたのだろうな。

 水魔法の指輪を渡す。


「指に付けてみてください」


 不思議がるテオドラだったが、指輪をはめてくれた。

 そして驚愕の表情を浮かべる。


「え?」


 何が起きたのかが理解出来たようだ。


「試し打ちしましょうか。ここは危ないので移動しましょう。護衛を何人かお願いします」


 指輪の効果を他の魔人達に見て貰う必要もある為、数人でキャンプ場の端に移動する。

 テオドラが、指輪に意識を集中し始めた。大気中と地中の魔力が吸収され始める。森という植物の生命で溢れた環境であれば、魔力の供給は問題なさそうだ。


 だけど、ここで誤算が出てきた。いつまで経っても魔力の吸収は終わらなかったのだ。最終的に自分の倍ほどの魔力を指輪に蓄えたところで、『壊れるかもしれない』と嘘を言って、供給を止めさせた。

 神様も、こんな壊れ性能にしなくても良いのにな。

 自分の求めたのは、簡単な魔法が使える物だったのだが、こればかりはしかたがない。

 自分の希望の物は、ハルカに作って貰おう。


「一気に放出はしないでくださいね。少しずつ水を生み出すイメージで」


 テオドラは頷いてくれた。

 そして、手から水を生み出した。テオドラの足元に水溜りが出来る。

 周りの魔人達が驚いていた。


 テオドラを見ると、涙を流していた。

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