第13話 魔人族の救援

 危なかった。油断していたかもしれない。


 ハルカに頼んで、素材の価値のある魔物を生み出して貰い、冒険者の近くに配置した。

 冒険者は、魔物を見ると剣を抜いて一振りした。

 それだけで、樹が何本も倒れたのだ。

 聞いてはいたが、防御不能の【空間切断】は、チートだ。飛ぶ斬撃……、見るまでは信じられなかった。


 そのまま、魔物を操作して魔人族のキャンプ地の近くまで誘導する。

 ここで誤算が出てしまった。

 冒険者の攻撃が、魔人族のキャンプ地に当たってしまったのだ。

 失策としか言いようがない。


 本当は、魔人族の斥候の目の前で冒険者を討ち取る算段だったのだが、〈飛ぶ斬撃〉の威力を見誤っていた。


 ハルカに頼んで、急いで【転移】して貰い、定空珠を起動させる。

 そのまま突撃して、手を向けたのだが、射線が通らなかった。

 風魔法の弾丸……、考える必要があるな。前世の銃の様なイメージではダメだ。

 今度は軌道を変える機能を付与してみよう。せっかくの〈魔法〉なのだから。


 冒険者の判断は的確であった。定空珠の範囲内に入り空間魔法が使えないと分かると、即座に森に身を隠したのだ。そして距離を取るため森を疾走している。ここで逃がす事は出来ないので追撃した。

 突然、空が暗くなった。ハッとする。上空を見ると、【収納】の魔法陣が展開されており、そこから大岩が多数降り注いで来た。

 定空珠の範囲外となる上空に空間魔法を展開する技量。この冒険者は、強いかもしれない。

 魔力を体内に吸収してフィジカルをスピード重視に変更する。降り注ぐ大岩を回避しつつ隙間となる空間を探す。

 ここは、森なのだ。いかに大岩の質量とはいえ、面制圧は出来ない。

 大岩と樹が作り出した空間を見つけ、そこで身を潜める。


 冒険者が戻ってきた。定空珠を解除して存在感を消す。自分の遺体を確認しに戻って来たのだろう。一時的にでも空間魔法が使えなくなったのである。その疑問に興味を示さない筈がない。

 互いに、姿を視認出来ないフィールド。

 だが、ここは、ダンジョン地下一階である。



 土魔法:地雷



 姿が見えなくても無駄である。どんなに気配を消しても自分には場所は分かるのだ。拡張現実〈AR〉は本当に使える。

 何も無い場所が爆発した。魔法はイメージだが、近代兵器をイメージする自分は夢がないかもしれないな。

 今度は、ファンタジーっぽい魔法を考えておこう。


 爆発音の後に、冒険者が出てきた。

 大怪我を負っている。降参とばかりに手を上げた。

 だけど、許す気にはなれなかった。事故とは言え、魔人族を傷つけたのだ。

 それに他種族を狩っているのが、冒険者なのだろう?

 狩られる立場にもあるはずだ。


 手を向けて、魔法を発射する。


 今回は、バインドは使わなかった。〈拘束〉は無力化するまで時間がかかるからだ。

 今は急ぎたい。



 その後、魔人族のキャンプ場に急いで向かう。十人が傷を負って動けないでいた。

 ハルカに頼んで、ポーションを【転送】して貰う。九人は飲んでくれたので、平らな場所に並べて様子を見ることにした。

 だが、一人だけ足が樹に挟まっていて動けないでいた。

 敵意を宿した眼でこちらを見てくる。


 だが、かまわずに樹を持ち上げて開放してあげた。結構大きな大木であったが、魔力でフィジカルを強化すれば、持ち上げられた。今回は、ストレングス特化だが、後で他のパラメータも上がるか確認しておこう。

 希望はスタミナ強化だな。疲労物質の除去とエネルギーの補給が出来れば、ゲリラ戦も可能になって来るだろう。



 助けた魔人族だが、ナイフを向けてきた。人族は相当嫌われているのだな。

 ポーションが入った小瓶を転がして、その魔人族の元へ送る。使わないのであればそれでも良い。とりあえずは渡した。


 さて、どうしようか。予定が大幅に変わってしまった。

 そんな時に背後から声を掛けられた。ただし、距離はかなりある。


「何者だ? なぜ、我々を助ける?」


 見るからに斥候タイプと言った装備をしていた。矢をこちらに向けている。魔力も開放している。


「自分は転移者です。魔人族の長と話がしたいのですが」


「それを信じろと言うのか?」


「冒険者を討ち取りましたが、それでも証明にならないと言うのであれば、証明に必要な物を指定してください」


 黙ってしまった。冒険者と敵対している事以上の証明などある筈がない。

 諦めたのか、矢を下げた。


「いや、すまなかった。まず、同族を助けてくれたことに感謝する」


 頭を下げてきた。


「異世界転移してまだ間もないのです。情報を貰えませんか?」





 斥候の魔人さんと話をして、こちらの目的を話す。精霊のご機嫌取りの話なのだが、驚いた表情をしていた。

 少し、互いの疑問を投げあって会話をすると、どうやら信用してくれたらしい。


 魔人族の長と話してくるとのことなので、その場で待つこととなった。

 そう言えば先程、足を挟まれた人は、ポーションを飲んでくれたみたいだ。

 気を失っている人達の手当をしていた。


 まあ、近づかなければ良いだろう。



 少し待つと、魔人族が現れた。

 長に会いたいと言ったのだが、何故全員で来るのだろうか?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る