第12話 魔人族の危機

◆魔人族の王女視点



 住処を追われてもう何年だろうか。

 人族というのは理解出来ない。

 そもそも、人族と魔人族は棲み分けが出来ていたのだ。それがどうだ。戦争に勝ったからといって、住処を破壊し追い出すというのは、どうかしているとしか思えなかった。


 魔王を名乗っていた父上は殺されて、姉上は囚われたと聞いた。

 何とか人族を避けて、移動を繰り返しながら旅を続けているが、もうすぐ限界を向かえるだろう。

 だが妾達が、魔人族最後の生き残りかもしれないのだ。

 何とか安住の地を探し出さなければならない。

 放浪の旅など時間の無駄だ。早く地に足を付けた生活を取り戻したい……。


 人族が辺境と呼ぶ地区に来たのは、正解だったかもしれない。このところ無駄な襲撃は無くなっていた。

 そもそも、魔人族を見かけたら攻撃してくる、冒険者というのは何なのだろうか?


 捉えて奴隷にするのでもなく、ただ単純に殺戮を楽しんでいる。

 怒りが込み上げてくる。

 妾に力があれば……。掌に爪が食い込み、血が流れていた。


 固く握った妾の拳に、そっと手を触れられて、我に帰った。

 まだ、幼き子が笑顔で微笑んで来たのだ。

 掌を開き、幼子を抱き寄せる。

 そんな時だった。


 ──ヒュン、ドゴーン


 吹き飛ばされた。樹がなぎ倒されてキャンプ場を潰して行く。

 確認しなくても分かる。何度も受けてきた【空間切断】による攻撃だ。

 冒険者に見つかったのだ。


「皆、バラバラに逃げよ!!」


 反射的にそれだけ言って、攻撃方向とは異なる方向に走った。幼子は妾にしがみついている。見捨てる選択肢など無い。

 その後、何度も【空間切断】による攻撃による轟音が響き渡ったが、少しすると音がしなくなった。

 おかしい。こんな短時間で冒険者の攻撃が終わるとは思えない。

 思案していると、同族が集まってきた。


 だが、迷っている時ではない。

 同族を纏め上げなから、元キャンプ場から離れるように移動して行った。

 とりあえず身を潜める場所を見つけて、一息つく。

 数を確認すると集まったのは、元の半分程度であった。


 冒険者一人に見つかればこの有様である。

 自分の不甲斐なさが、いまいましく感じられた。


 時間が立つにつれて、同族が集まって来た。

 隠密スキルを持った部下が、次々と同族を見つけてくれたのだ。

 いや、部下と呼ぶことなどおこがましい。妾は、魔王の血を引いているというだけで何も出来ない。

 だが、同族は妾に従ってくれる。

 自責の念で潰れそうだった。


 斥候が戻って来てくれた。そして意外なことを報告して来た。


「冒険者を討ち取った人族が、妾に会いたいと言っているのか?」


「はい。討ち取るところは、私が確認しております。また、怪我を負った同族にポーションを使用してくれて、今の所死亡者も出てはおりません」


「外見は? 人族では無いのか? もしや、獣人かエルフか? いや、どこぞに消えた鬼人があらわれたとか……」


「顔を隠す装備をしておりましたので、確信は持てませんが、人族と思われます」


 思案してしまう。人族が、冒険者を討ち取って魔人族の保護をする?

 どう考えても無理がある話だ。


「罠なのではないのか? 妾達が油断したところをまとめて……」


 自分で言葉を発しているが、それこそありえない。そんな面倒な事をする理由がない。

 このあたり一帯をまとめて吹き飛ばせば良いだけだ。

 空間魔法の使い手は、嫌というほど見てきた。城を真っ二つにされるところも、魔王が討ち取られるところも……。万を超える軍隊が、一瞬で胴体を切り離される場面を思い出し、嘔吐した記憶もある。


「疑うのであれば、何が欲しいのかを聞いてきて欲しいと言われました」


 思案してしまう。信頼の証……証明の方法。冒険者を討ち取る以上の証明などない。

 怖い……。このまま会わずに同族を連れて移動することが最善だと思う。

 だが、最後の希望にも思えた。


「妾が一人で会ってくる。皆の者は怪我の回復に努めよ」


 そう言って歩き出すと、皆着いて来てしまった。

 妾が、この者たちの最後の希望なのだ。来るなとも言えない。


 全滅の危険もあるが、このチャンスに賭けることにした。

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