第10話 昔の夢
夢を見た。昔の夢だ。
前世の時の夢。
自分は、出来る子供であった。
大体の事は、何でもそつなくこなしたと思う。だけど、一番にはなれなかった。
小学校に入り、サッカーの誘いを受けた。周りに比べればそれなりに上手かったと思う。そして地域代表に選ばれた。親は喜んでくれたが、そこまでであった。県代表に選ばれることは無かったのだ。才能の限界を感じてしまい、中学では帰宅部を選んだ。
色々と誘いを受けたが、興味を引かれるスポーツは見つからなかった。
中学一年の時の学業成績は、ちょうど真ん中であった。教科書が、小学校とかなり違ってしまった為に初めは戸惑ってしまったが、中学三年になる頃には、上の中といったところまで、成績が上がっていた。
高校は、県立高校の進学校に受かった。努力が実ったと思えて嬉しかった。
他人から見れば、順風満帆だっただろう。
だがそこで、とてつもない人物と出会った。
化け物、怪物、モンスター……。いや、あれが傑物なのだろうな。
自分は、五十メートル走を六秒前半で走れるのだが、軽く抜かれた。それが出会いであった。
身長は、自分と同じくらいだが、バスケでダンクを決められた。百七十センチメートルそこそこの身長なのにだ。メータージャンパーと言うらしいが、目の前で決められると結構心を折られる。
自分は、サッカーの経験があるので、息巻いて挑んだら惨敗した。目も当てられないくらいの点差を付けられてしまったのだ。
チームメイトには、サッカー部のメンバーもいたが、ふさぎ込んでいた。燃え尽きた白いボクサーみたいになっていた。
そして学業成績だ。その人は常にトップであった。点数で比較すると、全教科負けていた。
高校二年の時に別な同級生が、全教科満点を取って、その人物を負かせることがあった。だが、目に隈を作り狂喜の眼で教科書を読んでいる姿を見て、自分には出来ないと思ってしまった。
その同級生は、燃え尽きてしまったのか、高校三年になると上位から名前が消えていた。後で知ったのだが、地方の大学に進んだのだそうだ。あの精神状態で、大学を卒業出来るのだろうか? いや、大学に通えるのだろうか。
その人は、ある時から、同級生の異性と話す様になっていた。しばらくしたら、彼女だと周りに紹介していた。美しい黒髪の高い身長の美人さんだ。
私生活も完璧だと思えた。
自分もリア充に憧れていた。同級生で一番可愛いと思える異性に声を掛け続けたのだが、結局相手にして貰えなかった。
そんな時に、別な異性から告白されて付き合うことになった。
これが間違いであった。
話も趣味も合わなかった。二週間で別れることになると、悪口を言われるようになった。学校中にありもしない噂を流された。
だが、無視し続けていると、噂は消えて行き静かになった。だたし、もう異性と会話したいとか、リア充だとかはどうでも良いと思う自分が、そこにはいた。
学生生活は、友人と共に過ごせていたので、それなりに充実していた。
自分には何もないと言う劣等感さえ無ければ良かったのだが。多分、傲慢だったのだろう。
何も勝てないまま、高校の卒業を向かえた。
卒業式の日に、傑物に軽く挨拶をして握手をした。その時に、不意に言われた。
「君には人望があって羨ましいよ。色々と頼らせて貰ったけど、とても助かった。ありがとう」
人望か……。たしかに、その人の行動は、常に一人であった。
自分は色々な話を聞いて、仕事の振り分け等を行っていた。学級委員長だったことも多い学生生活であった。
生徒会長には立候補しなかったが。
思い返すと、頼られることは多かったかもしれない。
少しだけでも認めて貰えたみたいで嬉しかった。
自分は地元の大学に。その人は、一流大学へ。
次に会う時には、胸を張って会いたいものだと思っていた。
だが、大学生活は、退屈なものであった。
糸の切れた凧の様な感覚に襲われたのだ。
これではいけないと思い、色々なサークルを見て周った。そこでユーチューバ―という人達と出会った。
その人達は、動画で収入を得ていると知って、真似してみようと思った。
そして、MMORPGに手を出す事になった。
あの前世に戻れたとしても、神様に言われた幸福感は得られなかっただろう。多分だが、そこそこの企業に就職し、そこそこの収入を得て過ごすことになると思う。
あのまま人生を過ごしていたとして、あの人と再会した時に胸を張って会えるのだろうか?
いや、ゲームに熱中していたのだ。胸を張れるわけが無い。
自分には何が必要だったのだろうか?
何であれば一番になれたのだろうか?
一つでも一番を取れれば、幸福感を味わえたのだろうか?
今さら答えも出ない疑問を自分に投げかけてみる。
◇
目が覚めた。いや、起こされた。
「ソラ、起きた? というか、何時間寝てるのよ!」
ハルカが、少し怒った様子で詰め寄って来た。
神様から貰ったスキルなのだが、共同生活者がいると使い道が無いかもしれない。
まあ、いいや。起こされた理由を聞かなければ、ハルカの機嫌は直らないだろう。
「ハルカ。何かありました?」
「ダンジョンから冒険者が出て行ったわ。放置で良かったのよね?」
「ああ、ありがとう。大分時間がかかったけど、結局出て行ったのだね。これで、冒険者はいなくなった。ダンジョンの改造を始めようか」
ピクピクと反応する、ハルカ。
「う、うん。何をするの? 階層を増やす? それとも凶悪なトラップの設置? 定空珠の量産? 何でも言って!」
顔が近いよ……。
「その前に何か食べ物を貰えませんか?」
ポンと、定食が出て来た。塩豚丼だ。何故、塩豚丼かは聞かないで食べ始める。カツ丼とかが定番だと思ったのだがな。
「ダンジョンポイントが結構溜まったけど、どう使うの?」
食事をしている時に、不意に疑問を投げかけられた。
お茶で流し込み、口の中を空にした。
「そういえば考えて無かったですね。ダンジョンマスターって、何が作れるのかを聞いてなかったですしね」
「詳しく教えてなかったわね。階層を増やしたり、魔物の召喚と配置が出来るわ。それと、魔法が使える指輪の複製も出来るよ? それ以外にも結構色々な物が作れるわよ?」
食べながら考えてしまう。
まず、階層を増やす意味は無いと思う。十層もあるのだ。また、各階層は結構広い。
罠の配備も意味ないと思う。空間魔法使いに対しては、効果が無いだろう。 【空間断絶】による防御を突破するのは、物理的に無理がある。
光魔法とかあれば、あるいは可能かもしれない。レーザー系であれば貫けるかもしれないな。
もしくは音だが、爆風は防がれる恐れがある。どうすれば突破出来るか解析する必要がある。
唯一通じたのは、足元からの攻撃であるが、地雷は対策されているかもしれない。まあ、次の冒険者で試してみるか。
だが、アースバインドがあるのだ。貴重なポイントを消費してまで試す意味も無いか。
食べながら熟考する。
「まず、ダンジョンの外が知りたいのだけど、ここの地形とか出せますか?」
「え?」
ハルカが固まった。
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