第9話 初戦闘3
その後、各層の状況を確認するだけとなった。
どうやら、前後の階層で、定期連絡を行っていたらしい。この辺は妥当かな。
九層のパーティーが、十層にいたパーティーの不在を他の階層にいるパーティーに連絡し始めた。
そうすると、七層で一人行方不明になった事が伝わり、また、五層のパーティーも消えていることが伝わった。
六から九層のパーティーが話し合いを行っている。
ちょっとまずいかな。
「ハルカ。急いで定空珠を回収してください」
「……」
おいおい。さっきのはからかったわけじゃないぞ?
「悪かったって。でもさっきのは本音だよ?」
「う゛~」っと唸り声を上げて、定空珠を回収してくれた。だが、ハルカは、まだこちらを向いてはくれない。
見た目から年上かと思ったが、精神年齢は高校生くらいかもしれないな。
もしくはその手の話に疎いのかもしれない。長いこと一人で生きて来たのかな。
いや、今は冒険者の動向を注視しよう。
最悪、全滅させる必要がある。
思った通り、ダンジョンから引き揚げて行った。
四層に着くと、四層にいたパーティーも合流した。
次に、三層に着くと、言い合いを始めた。三層のパーティーは合流しなかったのだ。
その後、二層と一層のパーティーが合流して、ダンジョンから出て行った。
「ふむ……」
思案する。残ったパーティーを残した場合のシミュレーションを行う。
ダンジョンから出て行った奴等の行動パターン……。
少ない情報で、未来予測を立てる。
三層のパーティーへの対応を考える。
選択肢としては、
1.宝箱を与えて帰らせる。
2.討ち取る。
3.放置する。
4.その他。
唯一の情報は、先ほどの会話で出た『皆後が無い』だな。
「ハルカ。ダンジョンポイントを使いたいです」
ピクンと反応する、ハルカ。結構可愛い。
「……何が欲しいの?」
「自分の前世の知識になります。迷彩服、グローブとブーツ。ああ、ヘルメットとゴーグルも欲しいな。一応、プロテクターと防弾チョッキもお願いします。盾は……、今はいらないか」
拡張現実〈AR〉をスクロールして行き、欲しい物を見せる。陸上戦闘時の装備だ。
ミリタリー装備はあまり詳しくないが、必要と思われる物を指定する。『サバゲー』で検索したのだ。
ハルカは嬉しそうに、自分が指定した物を創造して行った。
最後に、冒険者が使っていた短剣を腰に差す。
「それじゃ行ってきます」
「うん……。気を付けてね」
「ありがとう。危ないと思ったら、強制的に【転移】してくれて構わないので」
「分かったわ」
◇
三層は、森林の階層であった。本来であれば、ここで『ファイアバインド』を使うのだが、今回は別な意図があるので使わない。
定空珠を使用して背後から近づく。
汗が頬を伝わる。
気配を殺しながら近づいていく。間も無く射程距離内だ。
手を向ける。震える手を無理やり抑え込んで、心を地面に置いた。
風魔法:刺弾連射
低級魔法により真空の刃を生成して発射する。命中率はどうでも良い。とにかく弾幕を張る。
風魔法の弾丸を容赦無く連射する。
空間魔法が使えない事が分かったらしい。五人中、三人が被弾して地面に倒れたが、二人が森に消えた。
自分も即座に移動する。いくら魔法があるとはいえ、まだ良く分からない相手に正面戦闘は避けるべきだ。
森林を疾走して、距離を取る。
『ハルカ。被弾した三人の状況を教えてください』
『えーと。三人は動かないけど、まだ生きているわ。それと二人が、ソラに近づこうとしている』
拡張現実〈AR〉を起動して、三層のマップを表示する。左右からの挟み撃ちの形を取って来た。
自分は、前進して倒れている三人の元に戻り、止めを刺した。
『ハルカ。ダンジョンルームに戻してください』
『了解!』
こうして、二度目の近接戦闘が終わった。
まあ、二回とも奇襲だけどね。
ここで自分の違和感に気がついた。歓喜に震えていたのだ。
自分でも意外な感覚だった。
自分に合うスポーツを探していたが、もしかすると格闘技が合っていたのかも知れない。体育で柔道とかは痛かったので敬遠したのだが、命のやり取りに面白みを感じてしまった。
もし戻れたら、サバゲー部に入るのも良いかもしれないと思えた。
◇
ダンジョンルームに戻ってきた。ヘルメットを脱ぎ、服をはだける。汗だくだった。
ハルカが聞いてくる。
「何がしたかったの? 全滅させない意味が分からないわ」
「メッセンジャーになって貰おうと思ったんですよ。今回は姿を晒した事に意味がありました。このダンジョンに得体のしれない奴がいる事と、定空珠の可能性ですね」
「ふ~ん。そのうち分かるって事ね。まあ良いわ。おつかれさま」
「それよりも、お風呂に入りたいのだけど、シャワールムとか作って貰えないですか?」
ハルカがにっこりと笑った。
人差し指を自分の額に当てて来た。
次の瞬間に、さっぱりした。これはすごい。
「やっぱりすごいね。ダンジョンマスターって」
ハルカは満面の笑みであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます