第8話 初戦闘2

 各層を見て回る。

 五層の冒険者が、焚火を行い交代で睡眠を取っていた。数は六人だ。

 ちなみに、五層は岩の床と壁であった。坑道を思わせる。

 見た感じ湿度が凄い高と思われる。良くあんな環境の場所で生活出来ると思ってしまう。

 次はこいつらにしようか。


「エアロバインド!」


 冒険者の周囲の風の流れを変える。一定空間内だけの循環を行うように『風の壁』を作ったのだ。

 たたし、焚火は消えない様にするために循環させている。



 十分後、焚火が消えた。

 冒険者は息絶えていた。何が起きたかも変わらずに死んでいっただろう。

 一酸化炭素中毒、もしくは二酸化炭素の濃度が高くなりすぎて酸欠をおこしたのだ。

 まあ、使い古された手だな。


 ハルカに指示を出して肉体と魂をダンジョンに吸収させる。

 ハルカはご満悦だ。


 ここで気になった。冒険者の装備だ。


「ハルカ。五層の冒険者の物資をダンジョンルームに【転送】出来ますか?」


「出来るよ。ちょっと待ってね」


 テントと武器防具、カバンが、目の前に現れた。だが、食料が少ない。


「こいつら、食べなくても生きて行けるのかな?」


 一人呟くと、ハルカが反応した。


「冒険者の食べ物は基本的に【収納】に収められているわ。時間停止などの付与持ちがいれば、年単位の食料を持っているのよ」


 まじにチートだな。前世では、輸送の問題は結構大きな課題だったのだが。年単位で物資の補給無しで生きられるのか。


「冒険者が死亡した場合は、【収納】に収められていた物がどうなるか分かりますか?」


「うーん。消えて無くなるかな? 多分、時空の海を漂うことになると思うわ」


 まあ、いいや。自分にはダンジョンマスターがいる。何でも作れると言っていたのだ。物資の心配はしていない。

 情報が手に入らないのが問題だが。

 それは追い追い考えて行こう。


 この後、一層で死亡した冒険者の装備も回収して痕跡を消した。

 残りは、八組のパーティーだ。時間が経てば、他の層の異変も気が付くであろう。

 さて、どうしようかな。



 各層を見て、七層の冒険者の動きが気になった。

 他の層は、固まって移動してるのに対して、七層の冒険者は単独で行動をしていたのだ。

 回収した装備の中から、自分と体系の似た冒険者の装備を選んで装備する。


「ハルカ。自分を七層の出口に【転移】させてください。そして合図したら、ダンジョンルームに戻してください。もしくは、わずかでも怪我をしたら戻してください。判断は任せます」


「直接戦闘しに行くの?」


「う~ん。戦闘はしませんね」


 ハルカは、理解出来なかったらしいが、自分を【転送】してくれた。





「あー、少し良いかな。下の層から来のだが」


 目の前には、七層の冒険者が一人いた。

 地元を離れてから敬語ばかりを使っていたので、口調が慣れないな。バレない事を祈る。


「ん? 宝箱が見つかったのか?」


 大丈夫な様だ。


「ちょっとトラブルが起きてね。切り合いになって逃げて来たんだ」


「は~。何してるんだ? ここのダンジョンに来る奴は、皆後が無いと言うのに」


 そうなのか? こいつらは追い詰められた冒険者なのか。


「回復薬を使い切ってしまってね。悪いのだが、売って貰えないだろうか?」


 冒険者の装備の中に、『ポーション』と呼ばれる回復薬があった。

 ハルカに聞くと、即座に怪我が治るのだそうだ。ただし、部位欠損は回復出来ないらしい。


「ああ、いいぞ。というか金はいらんよ」


「すまない、助かるよ」


 冒険者が、小瓶を差し出してきた。

 自分は、小瓶では無く冒険者の手首を掴んだ。


「!? 何をする!!」


 不意を突かれて驚く、冒険者。だが、もう遅い。


「ウォータバインド!」


 冒険者は、固まっていた。手を離すとその状態で倒れた。

 人体の約60%は水分なのだ。それが止まれば、まあ即死だろうな。問題は、直接触れる必要がある事か。

 しばらくすると、冒険者が消えた。ダンジョンに吸収されたのだろう。装備も消えているのでここで何が起きたかは、誰も分からないだろう。

 手を振って、ハルカに合図を送ると、【転移】してくれた。ダンジョンルームに帰って来たのだ。


「ふぅ~」っとため息が出た。結構緊張していたらしい。


 とりあえず、三種類の魔法の確認が出来た事が大きいな。使い方の基本を確認しただけだが。応用して行けば、出来る事も増えて行くだろう。最後の『ファイアバインド』は、本当に奥の手になる。今は使わないでおこう。



 冒険者が残して行った装備を見る。


 自分から言わせて貰えれば、正直なっていない連中であった。

 各層にパーティーを配置して競合を避けるのは良いが、連絡手段だけは確立すべきである。異世界定番の【念話】は無いのだろう。電話もしくはトンラシーバーも無いと思われる。

 個の強さに頼った者は、わずかでも困った状況に置かれた時に対処出来ないと言う事を知らないのだろう。

 まあ、罠に嵌められて撃破されるとは思っていなかったのだろうな。


 ダンジョンを舐めるからそうゆう目にあう。ここは、何が起きても不思議ではない。迷宮ダンジョンだぞ?


 空間魔法はたしかにチートではあるが、〈それだけ〉では無敵とは言えない。

 ここに付け入る隙がある。



「ソラは喜ばないのね。こんなにダンジョンポイントが溜まったのに、嬉しくないの?」


 考えていると、不意にハルカから声を掛けられた。


「思い通りに事が進んだけど、嬉しくは無いかな。ただ思い通りに事が進んだとしか感じない」


「そう……。つまらないわね」


「この世界に来て嬉しいことは、ハルカと出会えた事くらいかな?」


 ハルカが真っ赤になった。


「バカ!」


 そう言って部屋の隅に行ってしまった。

 別に口説いたつもりは無い。本当にそう思っただけだったんだけどな。

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