第4話 異世界へ1
気が付くと、街の真ん中で座っていた。
階段を椅子として座っていたのだ。
とりあえず、手足を確認する。問題無く動いた。だが、服装は粗末な物を羽織っている。麻かな? 靴はなく、草鞋であった。
そして、手元には宝石箱が置かれていた。いや、宝箱と呼ぶべきかな?
「あの……」
背後から声を掛けられた。慌てて振り向く。
少年が大きな荷物を背負って自分の背後に立っていた。慌てて、道を開ける。
「……ありがとうございます」
少年は一礼して行ってしまった。少年は首輪を付けられて、穴だらけの服と裸足であった。
ここで気がつく。言葉が通じるのだ。だが、周りを見渡して読めない文字を見て落胆した。
「多分、自動翻訳というやつだよな……」
そして、異世界定番の【鑑定】を思い浮かばなかった自分に再度落胆した。
今の自分は、スタート時点で結構危ない状況にいる。
神様との会話を思い出す。衣食住の保証はお願いしたはずだ。
「たしか、ダンジョンマスターを紹介すると言われた気がするのだが……」
一人呟く。
「兄さん。ダンジョンに行きてえのか?」
声を掛けられた。そちらを振り向く。
その男性は、かなり大きな斧を背負い、革の防具を纏っていた。マジにゲームの世界の住人である。
「あ、すいません。聞こえていましたか。それで、この近くにダンジョンはありますか?」
「何も知らないでこんな辺境に来たのか? この近くには、『虚空のダンジョン』があるだけだぞ? この街は、『虚空のダンジョン』に行く為に作られたんだ。もしかして、開拓村と間違って来たのか?」
「方角だけでも教えてくれると助かるのですが」
苦笑いが出た。
それに釣られて、男性も笑った。
◇
虚空のダンジョンは、街から十キロメートルほど離れた所にあった。方角は日の沈む方向であり、西になると思う。
「ありがとうございます。とりあえず行ってみます」
「まあ、待て。宝箱目当て以外にダンジョンに行く理由はないが、そんな装備で大丈夫なのか?」
「一応魔法が使えますので、装備はある程度で良いのです」
「ふむ。空間魔法の中級か上級の使い手みたいだな。良いだろう、案内してやるよ」
まず、盛大に誤解された。自分は空間魔法は使えません。
それにこの男性から、何か嫌な感じを受ける。モヤッとした嫌な感じだ。
「いえ、一人で大丈夫です。方角だけでも教えてくれたので助かりました。ありがとうございます」
「そうか……。気を付けて行きな」
一礼して別れた。
◇
まだ日が高かったので、そのままダンジョンに向かった。
街の西側は森であった。そして、獣道が出来ている。これならば迷う事は無いと思う。
自分の足であれば、一時間もあるけば着くはずだ。そのまま、森に入った。
森に入って数分で気がついた。見られている。
人数は分からない。だが、複数だ。
立ち止まって、後ろを振り向く。
しばらくすると、森から五人が出て来て、自分を囲んだ。
「さっきの人ですね。何か御用ですか?」
五人の男性は、笑い出した。
「いや、なに。金目の物を置いて行って貰おうと思ってな。俺達みたいな空間魔法の使えない者にとっては、単独で森に入る奴はカモなんだよ」
これが人権の無い世界か。ため息が出た。
盗賊が街で普通に暮らしているのか。
「魔法を発動しようとしたら、即ズブリと行くぞ! まず、その宝箱をまず足元に置け!」
聞くわけもないだろうに。
もういいや。話す事もない。殺意のこもった眼を盗賊達に向ける。
「アースバインド!」
初めての魔法の発動を行う。
盗賊達が驚いたスキを突いて、自分は輪から抜け出る。拘束したのは、足だけだ。武器を振るう事は出来るのだ。
「あ、足が動かねえ? 何しやがった?」
説明するわけもないだろうに。そのまま、バックステップで距離を取る。
「待て、待ってくれ! 魔法で足を拘束したのか?」
さっき、自分で魔法は使えないと宣言したものね。
あと警戒するのは、吹き矢とか暗器くらいかな?
「くそ!」
珠のような物を投げてきた。空中で突然推進力を得て、自分に向かってきた。
反射的に、宝箱で受ける。軽くジャンプして衝撃を受け流す。
数歩下がると、珠は推進力を失って、地面に落ちた。
「そんな、魔導具があんな箱を壊せないなんて……」
魔導具? まあ、魔法のある世界なのだ、魔力を持った道具があっても不思議ではない。そして、神様から貰った宝箱は、頑丈なようだ。さっきの珠をまともに受けていたら、頭が弾け飛んでいただろう。
でも、銃よりは有用性はないな。
さらに距離を取って、その場を後にした。
「待ってくれ! ここには魔物がいる。悪かった、頼む、拘束を解いてくれ!!」
なにか言っているが、聞こえない。
初めて刃物を向けられたのだ。
そして、人権の無い世界……。狩らなければ、狩られる。
とりあえず、死ぬ気はない。戦争もある世界だと言っていた。
場合によっては、大量殺人鬼になるのだろう。
背後から何かの遠吠えが聞こえたが、振り向かずにダンジョンに向かった。
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