第4話 異世界へ1

 気が付くと、街の真ん中で座っていた。

 階段を椅子として座っていたのだ。

 とりあえず、手足を確認する。問題無く動いた。だが、服装は粗末な物を羽織っている。麻かな? 靴はなく、草鞋であった。

 そして、手元には宝石箱が置かれていた。いや、宝箱と呼ぶべきかな?


「あの……」


 背後から声を掛けられた。慌てて振り向く。

 少年が大きな荷物を背負って自分の背後に立っていた。慌てて、道を開ける。


「……ありがとうございます」


 少年は一礼して行ってしまった。少年は首輪を付けられて、穴だらけの服と裸足であった。

 ここで気がつく。言葉が通じるのだ。だが、周りを見渡して読めない文字を見て落胆した。


「多分、自動翻訳というやつだよな……」


 そして、異世界定番の【鑑定】を思い浮かばなかった自分に再度落胆した。

 今の自分は、スタート時点で結構危ない状況にいる。

 神様との会話を思い出す。衣食住の保証はお願いしたはずだ。


「たしか、ダンジョンマスターを紹介すると言われた気がするのだが……」


 一人呟く。


「兄さん。ダンジョンに行きてえのか?」


 声を掛けられた。そちらを振り向く。

 その男性は、かなり大きな斧を背負い、革の防具を纏っていた。マジにゲームの世界の住人である。


「あ、すいません。聞こえていましたか。それで、この近くにダンジョンはありますか?」


「何も知らないでこんな辺境に来たのか? この近くには、『虚空のダンジョン』があるだけだぞ? この街は、『虚空のダンジョン』に行く為に作られたんだ。もしかして、開拓村と間違って来たのか?」


「方角だけでも教えてくれると助かるのですが」


 苦笑いが出た。

 それに釣られて、男性も笑った。





 虚空のダンジョンは、街から十キロメートルほど離れた所にあった。方角は日の沈む方向であり、西になると思う。


「ありがとうございます。とりあえず行ってみます」


「まあ、待て。宝箱目当て以外にダンジョンに行く理由はないが、そんな装備で大丈夫なのか?」


「一応魔法が使えますので、装備はある程度で良いのです」


「ふむ。空間魔法の中級か上級の使い手みたいだな。良いだろう、案内してやるよ」


 まず、盛大に誤解された。自分は空間魔法は使えません。

 それにこの男性から、何か嫌な感じを受ける。モヤッとした嫌な感じだ。


「いえ、一人で大丈夫です。方角だけでも教えてくれたので助かりました。ありがとうございます」


「そうか……。気を付けて行きな」


 一礼して別れた。





 まだ日が高かったので、そのままダンジョンに向かった。

 街の西側は森であった。そして、獣道が出来ている。これならば迷う事は無いと思う。

 自分の足であれば、一時間もあるけば着くはずだ。そのまま、森に入った。


 森に入って数分で気がついた。見られている。

 人数は分からない。だが、複数だ。

 立ち止まって、後ろを振り向く。

 しばらくすると、森から五人が出て来て、自分を囲んだ。


「さっきの人ですね。何か御用ですか?」


 五人の男性は、笑い出した。


「いや、なに。金目の物を置いて行って貰おうと思ってな。俺達みたいな空間魔法の使えない者にとっては、単独で森に入る奴はカモなんだよ」


 これが人権の無い世界か。ため息が出た。

 盗賊が街で普通に暮らしているのか。


「魔法を発動しようとしたら、即ズブリと行くぞ! まず、その宝箱をまず足元に置け!」


 聞くわけもないだろうに。

 もういいや。話す事もない。殺意のこもった眼を盗賊達に向ける。


「アースバインド!」


 初めての魔法の発動を行う。

 盗賊達が驚いたスキを突いて、自分は輪から抜け出る。拘束したのは、足だけだ。武器を振るう事は出来るのだ。


「あ、足が動かねえ? 何しやがった?」


 説明するわけもないだろうに。そのまま、バックステップで距離を取る。


「待て、待ってくれ! 魔法で足を拘束したのか?」


 さっき、自分で魔法は使えないと宣言したものね。

 あと警戒するのは、吹き矢とか暗器くらいかな?


「くそ!」


 珠のような物を投げてきた。空中で突然推進力を得て、自分に向かってきた。

 反射的に、宝箱で受ける。軽くジャンプして衝撃を受け流す。

 数歩下がると、珠は推進力を失って、地面に落ちた。


「そんな、魔導具があんな箱を壊せないなんて……」


 魔導具? まあ、魔法のある世界なのだ、魔力を持った道具があっても不思議ではない。そして、神様から貰った宝箱は、頑丈なようだ。さっきの珠をまともに受けていたら、頭が弾け飛んでいただろう。

 でも、銃よりは有用性はないな。

 さらに距離を取って、その場を後にした。


「待ってくれ! ここには魔物がいる。悪かった、頼む、拘束を解いてくれ!!」


 なにか言っているが、聞こえない。

 初めて刃物を向けられたのだ。

 そして、人権の無い世界……。狩らなければ、狩られる。

 とりあえず、死ぬ気はない。戦争もある世界だと言っていた。

 場合によっては、大量殺人鬼になるのだろう。



 背後から何かの遠吠えが聞こえたが、振り向かずにダンジョンに向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る