パセリ・ライター・マルシェ
日曜日の田舎の駅前広場なんて普段は地元のテレビ局がその辺りの一般人を捕まえてはいじり倒すだけの利用方法くらいしかないと思っていたけれど、今日に限って言えば賑わいを見せていて、何事かと目を見張るほどだった。
特設のテントがたくさん建てられたそこにはテーブルが置かれていてその上には色とりどりの品物が並べられている。品ぞろえはテントごとに異なっているのはこれが地元で作られたものだけを並べているマルシェの会場だからだと気が付いたのはのぼりが風に揺られていたのを見つけたからだ。
「どうぞ。見ていってくださいね」
近所のおばさんと形容するのがぴったりなくらいの女性が声を掛けてくる。どうやら地元でとれた野菜を売っているみたいだ。
「この辺りで採れたんですか?」
「そうなの。ほぼ家庭菜園みたいなものなんだけどね。ちょっと時間ができたじゃない。最近ハマっちゃって。気が付いたらこんなにラインナップも増えちゃったの」
きゅうり、じゃがいも、パセリ、バジル、ほうれん草。野菜が並べられているのをみて、これが家庭菜園レベルだなんてよっぽど広い庭があるというのか。
少し遠くを見れば山だらけの土地だ。そいうこともあるのかもしれないがそれにしても、充実っぷりに農家であることを疑ってしまう。
「あれ?これなんですか。ライター?」
野菜の隣に100円で売られているライターが置かれている。これも売り物なのだろうか。
「あら。いつの間に。誰かの忘れ物かしら」
おばさんも知らないものみたいなのでそれを手に取って詳しく見てみるが、なんの変哲もない100円ライターだ。試しに火をつけてみるけれど、火花は出るものの着火しない。ガスはまだ残っているのにどうしてだろうか。なんか別のものでも入ってたりするのか。
「ねえ。あの煙なに?」その瞬間のことだ、辺りがざわめき始める。確かに山の方から上がる煙が出る。「山火事?」「えっ。誰か消防に連絡したほうがいいんじゃない」「ちょっと。誰かなんとかしてよ」対岸の火事ではないけれどあんな距離の離れた心配をしても仕方のない気もするのだがけれど。誰かが焚火をしている可能性だってあるだおろうに。
それよりつかないライターの方が気になる。もう一度着火を試みるが、火花が起きるだけだ。
「煙黒くなってる」「あれやばいって」「誰か消防」「もう連絡した」騒がしいのに目を奪われながらもライターの着火を試み続ける。
「あれ火だよね。流石にマルシェも中止じゃない?」
あれ。気が付けばライターの中のガスがなくなっている。火がついていないというのになんでだろう。不思議なこともあるものだと、そのライターのをおばさんに戻して、すっかり騒がしくなってしまったマルシェを立ち去る。
近くにあるテレビ局から山火事を移すためにカメラが数台出てきたのを見て、やっぱりこの広場にはカメラが似合うとだけ思った。
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