舎弟・射程・謝礼
「ねえ。射程届いてないんじゃない?もっと引き付けて撃った方がいいと思うよ」
横目でモニタをちらりと見ただけでそんなアドバイスをしてくる彼女は的確にゾンビ相手にヘッドショットを決めていて、画面が暗くなってアドバイスが表示されている自分のモニタと同じ世界で起きていることとは到底思えなかった。
隣り合わせに置いてあるモニタはゲーム好きな彼女のために揃えたものだ。こんなに活用するなんて思っていなかったのは自分のゲーム苦手っぷりに自信があったからだったりする。
「そう言われても、エイムが難しすぎて距離なんて測ってられないよ」
「感覚で分かると思うんだけど」
そう会話しながらも次々と照準がゾンビたちの頭にセットされているのを見ていると機械が捜査しているんじゃないかと疑ってしまうほどだ。
ロードが終わって再びゾンビの世界に飛び込む。息つく暇もなく、ゾンビが遠くからこちらに走り始めているのはそういうゲームモードだから。スコアを競い合うモードなのだけど今日はそれにもう一つ条件が付いていたりする。スコアが低い方が今日の晩御飯をおごることになっているのだ。けれどこれじゃあ賭けにすらなっていない。
一方的すぎる。
実力差がありすぎる。
そんなことを言おうものなら、いまさら条件の変更はできないだとか、一度決めたことに文句言わないとかいろいろ言われるのがわかりきっているのでそれすら口にしない。
もはや舎弟状態じゃないかと日々感じていたりもするけれど、まあこれが心地良かったりするのも確かだ。
「ちょっと。負け確だからって手を抜かないでよ」
そう手の内がばれているのも少し気に食わないけれど、事実だしなぁとも思う。勝てない勝負に夢中になるほど子どもでもない。もう晩御飯をなににしようか考え始めてしまっているくらいだ。
それでもまたなにか言われるのも嫌なのでゲームに集中する。敵は一体。動きは不規則だけれど、よく見ればパターンがあることも分かる。慎重に頭に照準を持っていく。
頭が動いて照準がら外れる。
でも焦らずにじっとまつ。
照準に入らないまま近づいてくる。
「もっと。まだ大丈夫だから」
こちらにアドバイスをするくらい余裕があるのかと思わないでもないが、助かる。
大きくゾンビが揺らめいた。次、絶対に来る。そう信じて耐える。
「今!」
なんで横目でそんなに的確なんだと、ツッコミを入れる前にコントローラーのトリガーを引いた。
モニターからの銃声と共にゾンビがのけぞってそのまま倒れた。
「やればできるじゃん」
「ありがとう。もうちょっと頑張れそうだ」
きっと勝てはしないけれど、張り合いが持てるくらいにはなりたいものだと思う。
「ねえ。謝礼デザートでいいから」
「なんの話?」
「私のおかげで倒せたんだから当然でしょ」
晩御飯にプラスでデザートが付いた。
それくらいで済むならお安い御用だ。
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